ホーム幸せ経済社会研究所GDP成長神話よ、さようなら!地球サイズで安定した経済を回していくために。「定常経済とないものはない」勉強会レポート

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GDP成長神話よ、さようなら!地球サイズで安定した経済を回していくために。「定常経済とないものはない」勉強会レポート

2017年12月開催、第72回目となる読書会はちょっと趣向を変えて、課題書の代わりに枝廣先生のレクチャーを元にディスカッションを重ねる勉強会となりました。テーマはズバリ「定常経済とないものはない」です。

枝廣先生の「幸せ経済社会研究所」は、アサヒビール社からのサポートを受けて「定常経済」を研究中です。ちょうど年間の研究内容を発表された直後だったため、豊富な発表データを共有しながらレクチャーしてくださいました。

これまで長い間「大きくなることこそが素晴らしい」という前提のもと仕組みが作られてきた現代の経済。経済成長があること=GDPが伸びれば、人々の所得が増え、好きなものを買えることで”幸せ”になる、という考え方が一般的ともされています。しかし枝廣さんはその考え方を「幻想に過ぎない」と論破。”GDPを成長させない”定常経済の中で人々が幸せに暮らす社会を希求する、と提議します。

GDPを成長させない定常経済とは何でしょうか?そして定常経済が必要な理由と、果たして実現可能なのでしょうか?それらを考えるためにはまず「地球はそもそも閉鎖的だ」という視点を持つことが必要でした。

地球に入ってくるエネルギーは太陽からの光エネルギーのみ、そして出て行くのも熱放射だけ。つまり地球は地球上だけでエネルギーが循環している星であり、それを閉鎖系と表現しています。その地球を”経済目線”で見た場合、水や木々といった資源を与えてくれる「供給源」と、出たものを戻す先という「吸収源」の2つの役割を持っています。地球自体が大きくなることはないので、年間を通して地球が作れる淡水の量や木々が伸びる成長率といった供給量も、吸収できるCO2などの吸収量も限界値があるとわかります。

ここで、地球が年間で作れる供給分と、私たちがそれを使う量のバランスを、1年間のカレンダーに例えた「オーバーシュートデー」なるものが紹介されました。

1年間の始まりである1月1日に、地球が作れる1年分の資源を私たちが暮らすために預かったと考えます。それを年末の12月31日まで大切に使いながら暮らすはずが、何も考えずに使い続けた結果、年末よりも早くそれを使い切ってしまった。その日を、overshoot(行きすぎた)日として記録し、調査しているデータがあるのです。

「私が環境活動し始めた頃のオーバーシュートデーは、だいたい11月くらいでしたね」と振り返る枝廣先生。その足りない1ヶ月ちょっとは、資源を未来から前借りしていたことになります。

そして大変残念なことに、このオーバーシュートデーは毎年調査されるたびに前倒しされ、ついに最新調査では、なんと8月2日と発表されてしまいました。私たちは今、1年間分の資源を、たった7ヶ月で使い切り、あとの5ヶ月分を未来からどんどん前借りして地球上で経済活動をしているのです。これでは全くもって持続可能と正反対。枝廣先生は「まずは地球が供給・吸収ともに可能な量まで減らすこと、そして、もう大きくなりすぎない経済の仕組みが必要」と話します。

地球から出すものと地球に戻すもの、それを「スループット」と呼び、そのスループットが高すぎない、むしろ低い位置で安定している経済こそ「定常経済」が意味するところでした。また、スループットが上下することは、必ずしもGDPの成長とイコールではないのですが、スループットという単語よりも近似的に「GDPを成長させない」と表しているそうです。

ここで重要なのは、決して定常経済がGDPの成長を否定しているわけではなく、盲目的なGDP信者にならないこと。実はGDPには、良いGDPと、良くないGDPに分けられることをご存知でしょうか。市場でものが売れることで伸びるGDPは、どんな理由で売れたのか、それが人々の幸せに寄与しているのかは一切問われていません。

そのため、犯罪が増え、環境破壊が進み、戦争が起こりでもすると、残念ながら壊れたものを買うことでGDPは急成長します。もちろんこれは良くないGDPであり、決して私たちを幸せに導く成長ではありません。だからこそ、GDPの成長にとらわれないで、まずはスループットを下げること。そしてその中で人々が幸せに暮らす経済システムを作る、というレクチャーでした。

レクチャーの途中ではグループディスカッションをする時間が設けられ、参加者の皆さんからも様々な意見が上がり、高い社会意識が見られました。このテーマですぐに議論が始められることは「皆さん、かなり特殊ですよ」という枝廣先生からもお褒めのことば(?)が飛び出る一面も。

それにしてもこの定常経済、実現するためには何が必要なのでしょうか?日々このテーマと向き合う枝廣先生は「みんなの意識変革がなければ始まらない」と言います。

また、実は地域サイズに見ていくと、日本の各地に定常経済を実現した実例があり、先生はそういった各地に出向きながら研究を続けているとのこと。静岡の駿河湾、熊本の水増集落、北海道の下川町、島根県の海士町といった実例をとても具体的に紹介いただき、参加者の皆さんも熱心に聞き入っていました。

住人が少ない地域の場合、問題意識や危機感などの意思統一が図りやすいことがイメージできますが、今後はその成功事例をグローバルに発展させる方法について研究を進める予定だと話す枝廣先生。今後、海士町のスローガンとして有名になった「ないものはない」の考え方を英語化し、世界に伝える計画をされているそうです。

今回は本をちょっと横に置き、何を幸せと捉えるか、何を幸せを捉えるか、根底から考えさせられる時間となりました。

幸せ研の読書会は、「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について考え、対話する読書会です。課題図書を読んでいない人でも参加でき、誰にでも発見のあるイベントとして運営しています。ぜひお気軽にご参加ください。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページから!

(やなぎさわまどか)