「greenz.jp」のライターでもあるPOZIプランナーの丸原が、同WEBマガジンの連載「イノベーション・ファシリテーターの本音」で執筆した記事を転載してご紹介します。
身近なところから「ほしい未来をつくる」アクションを起こしていきたい。そんな思いで、いま自分がいる会社や、携わっている仕事の中で新しい取り組みにチャレンジしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、企業からの相談を受けて進めるプロジェクト経験も豊富な株式会社フューチャーセッションズの筧大日朗さんに、企業内でのソーシャル・アクションのヒントを聞きに伺いました。多様な人たちとの対話を通して未来に向けてのアクションを創り出す「フューチャーセッション」を展開する彼らならではのヒントがあるはず、と期待しながら…。
渋谷にあるフューチャーセッションズのオフィスのドアを開けてすぐ耳に飛び込んできたのは、卓球のラリーのような小気味良いディスカッション。どうやら、ちょうど企業の方を交えて打ち合わせされていたとのこと。ひと仕事終えてリラックスした表情の筧さんに、さっそくお話いただきました。
つくり手だけでつくる限界を超えたい
フューチャーセッションズの創立メンバーとして主にコンサルティングに携わる筧さん。今のキャリアに進むきっかけになったのは、前職で感じた仕事のプロセスに関する、ある疑問でした。
筧さんはかつて、富士ゼロックスで新しいソフトウェアの開発をされていました。開発にあたっては、顧客に求められる機能などについて社内で議論を積み重ね、試行錯誤を繰り返してようやくひとつの商品ができあがります。ところが、そんな苦労の末に生み出した商品が販売してみると、思ったように売れない。そんな経験をすることが何度かあったそうです。
ソフトウェア開発に5年ほど打ち込んできましたが、つくる側の頭の中だけで考えていても、顧客の本当のニーズにマッチする商品は生み出せないのではないかと思うようになりました。
一方的につくって売るのではなく、むしろ、顧客といっしょに未来を見据えて商品をつくったほうがいいのではないか。そんな思いから、社内ベンチャーとして立ち上がったKDI(Knowledge Dynamics Initiative)という組織を経て、企業だけではなく行政やNPOなど多様なステークホルダーを交えた創造的な対話の場をファシリテーションする会社、株式会社フューチャーセッションズを立ち上げることに。
企業から行政、市民セクターにまでコンサルティングの対象を広げた筧さんには、企業にはこれからもっと期待してもいいと言います。
競合他社の後追いでは儲からない。顧客の本当のニーズは分からない。いま企業は、自分たちで課題を見つけて事業を生み出していく必要に迫られているのではないでしょうか。でも逆に言うと、たくさんのリソースとさまざまな人材を持つ企業には、社会課題をビジネスで解決していく余地がたくさんあると思うんです。
“ガス抜き”で終わらないワークショップとは?
新たな課題を見つけ、事業のアイデアを生み出すための手段として、企業内ではさまざまなワークショップが開かれています。
私自身も当事者として、また運営側として何度かそうしたワークショップの現場を見てきました。いつもの会議とは違う雰囲気の中での対話はときに白熱するほどの盛り上がりを見せることがあります。ところが、そこで出たアイデアはその場のガス抜きのような形で終わることが多い印象も。
よくあるワークショップと、未来思考のアクションを生み出すフューチャーセッションの違いはどこにあるのでしょうか。
まず、いわゆるワークショップは単発のイベントと捉えられることがよくありますが、新しいアイデアと行動を生み出すという目的の場合、それだけではうまくいきません。
アイデアが出てくる魔法のように思われますが、そんなことはないんです。何のために話をするのか、生まれた切り口をどう使うのかという展望を持った上での対話を設計し、成果を共有して未来につながる流れをつくっていく。そこが、単発イベントとなるワークショップとフューチャーセッションの大きな違いです。
また、参加者が課題を他人事のように語りがちなワークショップは、ガス抜きに終わりがち。評論家のように「こうしたらいいのでは」という意見しか交わされない対話の場は、変化を生み出す力を持ち得ないのです。
参加する人が、自分はこうしたいんだ、という表出をする場をつくっていくことが大切なんですね。それがあるかないかで成果は大きく変わります。自分で何かを決めるというステップを組み込むことで納得感が変わり、次の日からその人の行動が変わる。そうすることで、周りの人たちや組織も変わっていくんです。
「表出の場」というのは初めて聞く言葉です。具体的には、どんなことをするのでしょうか?
問いに対して実行したいアイデアは何か、セッションでどのチームに参加するかなど、その時点での自分の考えを決めて表出する、可視化する場面を組み込んでいくんです。
たとえば、「ものづくりをする人の未来」というテーマのセッションを実施したときは、「生まれてほしい未来の『ものづくり人』は?」という問いに対して、一人ひとりに自分のアイデアをA4用紙に書いて、それを掲げて部屋を歩いてもらいました。
そのあと、共通点があったり、組み合わせると面白そうだったりする人たち同士でチームに分かれて、「2027年に未来のものづくり人が働いているシーン」を具体的にまとめる作業に入ります。自分で意思決定するステップを踏んでいるから、自分ごと感が高まるのです。
ワークショップを成功させるために百戦錬磨のファシリテーターにサポートをお願いできれば心強いのですが、筧さんは、まずは自分たちだけで小さくやってみるだけでもいいと言います。フューチャーセッションズのプラットフォーム「OUR FUTURES」で紹介されている公開型のフューチャーセッションに参加してみて、そのノウハウやプロセスを活用して、その手法をまねしてやってみるというのもいいかもしれません。
ファシリテーションの場の主役はファシリテーターではなくて参加する一人ひとりですからね。人前で話せるという人であれば誰でもファシリテーションはできるのではないかと。プロセスを意識して場を設計すれば、あとは参加者が対話をしてくれますから。あと大事なのは参加者のマインドですね。一人ひとりが未来に向けて対話をするという心構えがあれば。
まず自分のいる組織の中でやってみよう。そう思ったときに気になるのが、普段の上下関係や仕事の管轄。日常のタテヨコの序列のまま対話の場をつくっても、ふだんの会議と変わらなくなる懸念があります。そこで大切なのが、信頼関係づくりだそうです。まずは参加者がお互いに、どんな話でも安心して話せる関係であり、そんな場であることを確認することで場の雰囲気が変わるのです。
どんな組織でも何らかの人間関係はありますよね。まずはお互いの話を聞き合うというワークを少し入れてみるだけでも大きく変わってきますよ。ひとり1分ずつでも、ややプライベートなお互いの話を傾聴する時間をつくるんです。自分のことを話せた、それを聞いてもらえた、という経験をするだけで、人は安心とか信頼を感じるものなんですよ。
横のつながりで、しがらみを突破する
企業の持つ力を社会に生かしていくために、筧さんは企業で働く個人にはもっとできることがあると言います。たったひとりでは立場が弱く、いきなり大きな動きをつくることは難しくても、今は働き方改革やSDGsなどの追い風もあります。何かを変えていきたいという人たちがつながることで、新しい動きが生まれます。
その一例が、フューチャーセッションズが主催する「渋谷をつなげる30人」プロジェクト。これは、渋谷区の総合政策「ちがいを ちからに変える街。渋谷区」で掲げる20年後の未来像を実現するために、渋谷区の企業・行政・NPO市民の30名が参加し、連携して社会的なビジネスを生み出す活動を約半年かけて立案・実行する、まちづくりプロジェクトです。
30人のうち、20人は企業で働く人で、10人が行政やNPOで働く人。企業は費用を負担して人を出すことになるのですが、地域に根ざした社会的な視点でセクターを超えたセッションをすることで新しい商品やサービスを生み出すことが期待されています。
こうした社会的な活動にお金と人を出すことに積極的なところも出てきている一方、まだまだそこまで意識が進んでいない企業もたくさんあるように思います。そんな環境の中で一個人が社会的な活動を志すことは心細く、困難が伴うと思われますが、何か打開策はあるのでしょうか。
会社の枠を超えて横のつながりをつくる動きには個人的に注目しています。
例えば、大企業の若手や中堅の人が中心となって集まっているプラットフォーム「One JAPAN」。新しい価値創造のために志を持った人たちが会社の枠を超えて集まって、お互いを刺激しあい、コンサルし合うような関係づくりですね。ひとりでコツコツやるには限界があるので、こうした横のつながりをつくって何かを始めるのもいいかもしれません。
大切なのは、儲けるための新規ビジネス開発に走る前に、志を立て、業種を超えてつながること。最初からビジネスにすることありきだったり、業界での常識に囚われたままだったりと、発想が広がっていかないんですね。
もっと、働くことを楽しんでいい
また、社外のネットワークをつくる以前にできることを考えてみるのも大切だと筧さんは言います。
どんな仕事も、実は社会に貢献できる要素があるはず。いま取り組んでいる仕事を卑下することなく、ひとつひとつ、身近な課題に向き合い、変えていこうという動きをつくってみると弾みがつきます。ミーティングにファシリテーション的な手法を組み込んでみたり、自分たちのチームだけのビジネススタイルをつくってみるなど、ちょっとしたことから変えてみてもいいかもしれません。
企業にいる人も、働くことをもっと楽しんでいいと思うんですよね。捉え方次第です。自分のやっている仕事が何につながるのか。自分の仕事の仕方をどうやったら変えられるか。改善というと苦しくなりますが、未来思考で、こういう未来にしていきたいからこうしていこう、と考え、動くよう心がけてみてはどうでしょう。
「イノベーション・ファシリテーターの本音」という連載にもかかわらず、ファリシテーションについての話題から大きく脱線してしまいました。ひとりでモヤモヤ悩みがちな私にとっては大きなヒントが得られるインタビューとなりましたが、筧さんからも、最後にこんなコメントをいただきました。
フューチャーセッションズの仕事はマイプロジェクトを応援することとはちょっと違うのですが、お話させていただいて、企業内でのマイプロジェクトを育てることは、企業変革につながるのかもしれないという気づきを得ることができました。
企業変革と聞くと途方もない気持ちになってしまいますが、次の一歩を変えるくらいならできそうです。
今回のインタビューではすぐに仕事に取り入れられそうなテクニックや心構えといったアドバイスもいただいたので、私も少しずつ取り入れてみようと思います。同じ志を持つ人たちとの交流も深めていきたいと思っておりますので、この記事を読んでいただいたみなさんとお会いし、お話できることを楽しみにしております!
– INFORMATION –
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