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【レポート】無人の林に“雪”降り積む。長崎県対馬の水中ごみ回収活動に参加

POZIプランナーの池上喜代壱が、2018年11月17日~18日の二日間、海の環境NPO法人・OWS(オー・ダブリュ・エス)が実施した長崎県対馬のサンゴ礁域のごみ回収活動に参加して来ました。

一般にはあまり知られていないと思いますが、実は日本列島は世界的に見ても造礁サンゴの分布北限域に当たり、その中でも長崎県対馬市の志多浦(したのうら)には、2012年に確認された「世界最北端のサンゴ礁」が存在しています。(造礁サンゴ群体は千葉県や新潟県佐渡島などまで広く分布しているのですが、造礁サンゴが積み重なって形成された地形としての「サンゴ礁」となると、これまで科学的調査で確認された中では、対馬の「サンゴ礁」が世界最北に位置します。)

ところがこの対馬の「世界最北のサンゴ礁」は、地元漁業者の皆さんが日々使用している漁港のすぐ脇にあり、地元の方々にも長い間、その価値が知られていませんでした。そのため、海中には過去の様々な漁業廃棄物やロープ等のごみが放置されたままとなっており、荒廃が心配される状態になっていました。また対馬には、近隣の韓国や中国などを起源とする漁網等のごみも漂着し、たいへんな問題ともなっています。

そこで今回、OWSでは対馬市と地元漁業者とに協力をお願いし、会員有志のダイバーによる海中及び浮遊漂着ごみの回収を実施することになったのです。

入り組んだ入江が美しい対馬の海岸線(浅茅湾)

入り組んだ入江が美しい対馬の海岸線(浅茅湾)

 

志多浦の漁港脇の桟橋。画面左側の水中にサンゴ礁が広がっています。

志多浦の漁港脇の桟橋。画面左側の水中にサンゴ礁が広がっています。

さて実際に海に潜ってみますと、対馬のサンゴ礁にはカワラサンゴやキクメイシ、ニホンアワサンゴ等のサンゴが群生し、たいへん美しい水中景観が広がっていました。

キクメイシ類の群落

キクメイシ類の群落

 

ニホンアワサンゴの大きな群体

ニホンアワサンゴの大きな群体

ところがその美しいサンゴとサンゴの間には、ずっと以前に使われていたと思われる古い籠網やロープ、ブイなど、様々なごみが溜まっています。このまま放置しておけば、海が荒れた際などにはそれらのごみがサンゴを傷つけてしまいますので、出来るだけ早く回収する必要があります。また、ごみが発生してから長い時間を経ているために、既に周辺のサンゴはごみを包み込むように成長してしまっており、それらを引き上げるためには、まずはサンゴに絡みついているロープや網などを水中で切断したのちに、細かく分けて引き上げることが必要な状態でした。志多浦には潜水漁業を行う方がおらず、また近隣にはスクーバダイビングのサービスショップなども存在しませんので、地元の皆さんも水中の状況は十分に把握されていなかったようです。

カワラサンゴと一体化している古い籠網やロープ

カワラサンゴと一体化している古い籠網やロープ

 

古いロープの塊りや、つぶれたブイなども沈んでいます。

古いロープの塊りや、つぶれたブイなども沈んでいます。

今回の参加者はダイビングのインストラクターやプロカメラマンなども含むベテランのダイバーばかりでしたが、ロープカッター用のナイフやノコギリを手にした水中作業などは、ほとんど経験がありません。普段のレジャーダイビングはリラックスしながら潜るものなのですが、太いロープ(しかも中には金属ワイヤー入りのものまである!)を切断するとなると、とても「リラックス」などと言っている余裕はありませんでした。海面に浮上してからも「明日は腕が筋肉痛になるな。」などと、普段のダイビングではありえない会話が交わされました。

慣れない水中作業に一苦労。なるべくサンゴを傷つけないように、気を使います。

慣れない水中作業に一苦労。なるべくサンゴを傷つけないように、気を使います。

また近くには海外から流れ着いたと思われる漁網やロープの塊りも漂着していましたので、こちらもナイフやノコギリで細かく切断して陸揚げします。塊りが一つで数トンの重さがありますので、そのままでは引き上げられないからです。こちらは足の着く場所での作業でしたが、ウェットスーツを着たままの作業でしたから、今度はものすごく暑い(苦笑)。実は作業に入る前には「もう寒いのではないか、海の中は冷たいのではないか」と心配していたのですが、かえって水の冷たさをありがたく感じるほどでした。

漁網やロープが絡まった漂着ごみの解体作業。既に半分以上は陸揚げされた状況です。

漁網やロープが絡まった漂着ごみの解体作業。既に半分以上は陸揚げされた状況です。

こうした作業を経て、水中および海岸から回収したごみは、フレコンバッグ(フレキシブル・コンテナ・バッグ。通称「トン袋」)に13個分。人力と軽トラックと船に備え付けられたクレーンを使って岸壁の一か所に集め、最終的には対馬市に処分をしていただくことにしました。当初、対馬市から頂いたフレコンバッグは5袋でしたので、見込みの3倍近い量のごみを回収出来たことになります。計量の準備をしていませんでしたので正確な重量は計測出来ませんでしたが、それぞれのフレコンバッグは大人が4~5人でようやく持ち上げられる重さでしたから、ざっと200~300kg程度だったのではないでしょうか。全部で3~4トン程度のごみは回収できたものと思われます。

いったん船上に上げられた海中ごみ。半日でフレコンバッグ3つ分が集まりました。

いったん船上に上げられた海中ごみ。半日でフレコンバッグ3つ分が集まりました。

 

13袋のごみと、地元協力者の方との記念撮影。今回の参加者は10名でした。

13袋のごみと、地元協力者の方との記念撮影。今回の参加者は10名でした。

また水中&海岸での回収作業の後には、今回の活動の実現にご尽力いただいた対馬市議会議員で漁業者、民宿経営者の作元義文さんにご案内いただいて、周辺の海岸漂着ごみの状況の視察もさせていただきました。

5人乗りの小さなボートに乗って港から5分~10分程度、人が住んでいないばかりか、陸側からはアクセスすることすらできない無人の海岸に、プラスチックブイや発泡スチロールの漁具、漁網などを中心に、大量のごみが積み重なっています。転がっているペットボトルなどのラベルを見ると、日本語、中国語、ハングル、英語など、実に国際色豊か。風や波の向きと入江の向きの関係で、ごみは特定の海岸に吹き寄せられる傾向にあるそうです。大小のタイドプール(潮だまり)などもあり、夏場に磯遊びに来たらこんな楽しい場所はないだろうと思う素敵な海岸だったのですが、砂浜を埋め尽くしている大量のごみの迫力には、ただただ言葉を失うばかりでした。

人里離れた海岸に吹き寄せられた大量のごみ。

人里離れた海岸に吹き寄せられた大量のごみ。

 

日本のごみと外国からのごみが混じっています。

日本のごみと外国からのごみが混じっています。

さらに衝撃的だったのは、その海岸から200mほども内陸に上がった雑木林の奥に広がっていた光景です。軽い発泡スチロールだけが風に飛ばされて、海岸から離れた林の奥に吹き溜まり、まるで雪が降り積もったかのような、真っ白な地面が広がっているのです。

まるで雑木林の中の残雪のような発泡スチロールの堆積

まるで雑木林の中の残雪のような発泡スチロールの堆積

人が足を踏み入れることもない無人の林の奥に、静かに積み重なっている白い人工の“雪”。小さなボートでしかアクセス出来ない場所ですから、この“雪”を回収して処分しようとすれば、ボートは何艘、何回、この海岸と港との間を往復しなければならないのでしょうか。実際には、そんな作業は到底できません。

発泡スチロールの“雪”は、画面中央の林の奥に積もっていました。

発泡スチロールの“雪”は、画面中央の林の奥に積もっていました。

私たちは今回、世界最北のサンゴ礁にたまったごみの除去を目的に対馬に渡ったのですが、フレコンバック13袋のごみを回収した後に改めて見せつけられたのは、「これはどうすることも出来ない」と絶望すら感じさせるような、海岸漂着ごみの深刻な現実でした。それでも地元の方々は、年に何度も回収作業をされているそうなのですが、ついさっきまで私たちが味わっていた小さな達成感や満足感も、大量に溜まっている海岸漂着ごみの静かで、そして一見“美しい”景色の前では、粉々に砕け散ってしまうように思われました。

こちらは別の海岸。遠くまで白い発泡スチロールのごみが溜まっているのが分かります。

こちらは別の海岸。遠くまで白い発泡スチロールのごみが溜まっているのが分かります。

今、海洋プラスチック汚染の問題には、大きな社会的関心が集まっています。様々な人々が様々な立場から様々な主張をし、時には激しく意見対立することもあるようです。しかしその海洋プラスチック汚染問題で議論している人々の中に、私たちが対馬で突き付けられたような海のプラスチック汚染の“現場”を実際に体験してきた人は、どれくらいいるのでしょうか?

私が参加しているNPO法人・OWSは、既に20年前からこの海洋プラスチック汚染の問題に取り組んでいます。私自身も10年近い以前からこの問題を考えるようになり、対馬に限らず、住んでいる関東近辺や旅行に行った沖縄などでも、様々な海岸や河口付近、あるいは街中でも、プラスチックのごみが捨てられたり、溜まったりしている状況を確認したり、記録したりしてきました。もちろん、団体としても個人でも、何回もごみの回収作業をしています。

ただそれでも、私がさまざまな“現場”で感じること、考えることを、写真でも動画でも十分に伝えることは難しいとも感じています。私たちが日々暮らしている日常世界の常識を遥かに超えている海の“現場”の状況は、正に「筆舌に尽くしがたい」のです。

ですからもし、私のこの拙い(しかし長い。苦笑)レポートで、プラスチックなど、海のごみの問題に少しでもご興味・関心を持たれた方がいらっしゃれば、ぜひ、私にお声掛け下さい。対馬まで出かけることは難しくても、都心から電車でわずかに移動するだけでも、海洋プラスチック汚染の現実を十分に感じ取ることのできる場所はあります。そのような場所にご案内して、海洋プラスッチク汚染の現実を体験していただきたいと思います。(NPO・OWSのネイチャーガイドとしてのご案内も可能ですし、POZIプランナーとしてのご案内も可能です。)

それは普段は人目にはつかない場所ですから、案内者がいなければ気づかないことでしょう。しかし私たちの日常生活のすぐ近くにも、やがては私たちの生命すら脅かしかねない「プラスチックのごみ」は、確実に蓄積されています。そうした(決して楽しくはありませんが学びのある)現実さえ共有出来れば、その後には例え立場の違う者同士でもきっと、もっと前向きな結論に向かって協力することが出来るはずだと、私は考えます。

海の中にはサンゴ礁がありますが、対馬には雪が降り、稀には積もることもあるそうです。いつの日か、私が見たあの林の中の人工の“雪”がなくなって、本物の雪だけが積もった海岸や林の風景を楽しめる日が来て欲しい。そのために何が出来るのか、何をすべきなのか、改めて考えたいと思った対馬の回収活動でした。

 

参考ウェブサイト:海の環境NPO法人OWS http://www.ows-npo.org/