持続可能な社会の実現に向けてNGOと企業が協力する機会を推進する、「NGOと企業の連携推進ネットワーク」。その参加団体・企業のメンバーがともに学び合い、対話する場である定例会では、2020年度のテーマを「COVID‐19時代の社会的リスク」として展開していきます。
連携推進ネットワークでは、「社会的リスク」を、国連グローバルコンパクト10原則における4分類である「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」を切り口に、4回にわたって定例会を開く予定です。今回は、8月24日に行われた第2回、「労働」についての定例会の様子をご報告します。ファシリテーターは前回に続き、JANIC理事を務めるNTTデータの金田晃一さんです。
まずはじめに、(公財)国際労働財団JILAF 現地支援グループ プログラムマネージャーの山口潤さんより、タイ・バングラディシュ・ネパールでの活動報告を基にお話しいただきました。
(公財)国際労働財団は、労働分野における国際交流及び協力を推進する組織として1989年に設立しました。30年以上、政治的中立性を保ちながら、開発途上国の若手リーダーを日本に招へいし、途上国の発展に活かせる体験型のプログラムを提供。他にも、日系企業が不要な労使紛争に巻き込まれないための現地での支援や、社会貢献・児童労働撲滅のために学校の運営をおこなっています。こうした活動は、親日的なリーダーの育成にもつながっているそうです。
ここで「インフォーマルセクター」の問題について触れました。公的機関の認知・保護・規制を受けていない貧しい労働者の活動を表しており、セーフティネットがなく劣悪な環境での労働を強いられることが多いのが現状です。
現在COVID‐19の影響で様々な問題が顕在化しています。タイではテレワークに伴うデジタルマーケティングやSNSなどに携わる社員の長時間労働。バングラデシュでは景気悪化で大量キャンセルのあった工場が閉鎖し失業者が増加するなど、今後インフォーマル労働者の割合がさらに高くなることが懸念されます。
企業が海外進出する際には、こうしたインフォーマルセクターに属している人が取引先を含めたサプライチェーンの中にいないか、スピーディーに変わる海外の労働法制やトレンドを理解できているか、といった点に気をつける必要があるとのことでした。インフォーマルセクターに携わる人を採用することは必ずしも違法ではありませんが、SDGsの観点からも、今後インフォーマルセクターに携わるひとたちをよりフォーマル化していくことが大切です。
続いて、認定NPO法人 シェア=国際保健協力市民の会の西山美希さんより、日本の外国人労働者と健康課題についてご説明いただきました。
外国人労働者を守るためには、SDGsの多くの目標に取り組む必要があります。シェア=国際保健協力市民の会では、「8:働きがいも経済成長も」「10:人や国の不平等をなくそう」だけでなく、「3:すべての人に健康と福祉を」という部分にも着目。「いのちを守る人を育てる」保健医療の人材育成を中心に、最近ではCOVID‐19対応として、SNSでの多言語情報発信なども行っています。
日本では、人材育成を通して国際協力することを目的とした「技能実習生制度」が取り入れられています。実習生の保護を図る体制が確立された環境で行うこと、労働力の需給の調整手段として行われてはならないことが定められていますが、7割が法令違反というデータが出ているのが現状です。
その中でも特に問題となっているのが、事業協同組合や商工会等の非営利団体が技能実習生を受け入れ、参加の企業等で実習を実施する「団体監理型」という方式です。送出機関による実習生への多額の手数料の徴収や、監理団体の不十分な監理、実習という名目で低賃金かつ劣悪な労働を強いている職場の問題などがあります。また、結核・妊娠による解雇など、人権侵害・奴隷労働のような実態があるのです。劣悪な環境の中、COVID‐19感染拡大のリスクも高まっています。
外国人技能実習生の雇用にはリスク管理が必要です。直接雇用していなくても、サプライチェーン上の現状把握、市民社会との連携が求められます。
定例会では、NGOや企業それぞれの立場からの意見交換も行いました。外国人労働者についての制度が整っていない中で難しい面も多々ありますが、近年企業がアジア・アフリカに進出し経済発展していることで、社会問題は全体的に減ってきているそうです。企業と途上国との橋渡し役としてNGOがファシリテーションを行うなど、企業とNGOが連携して進めていくことの重要性について学ぶ機会となりました。
(POZI サステナビリティ・プランナー 井上慶美)