ホームPOZIコラム医療現場に、被災地に。企業の数だけ、社会支援のかたちがあるはず。企業プレイヤーたちが本音で語る、NGOとの連携アクション

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医療現場に、被災地に。企業の数だけ、社会支援のかたちがあるはず。企業プレイヤーたちが本音で語る、NGOとの連携アクション

医療現場に、被災地に。企業の数だけ、社会支援のかたちがあるはず。企業プレイヤーたちが本音で語る、NGOとの連携アクション

<WEBマガジン「greenz.jp」のライターでもあるサステナビリティ・プランナーの丸原による記事から転載してご紹介します>

社会課題の現場で支援に取り組むNGOと、ビジネスという舞台で経済活動を行う企業。このふたつのセクターは、まるで別の世界で動いているような印象を受けることがあります。しかし、両者がそれぞれの持ち味をいかして連携することで、これまでにない社会課題へのアプローチが可能になるかもしれません。

greenz.jpの連載「いかしあう支援のカタチ」では、企業とのコラボレーションによる活動を実践し続けているNGO「ピースウィンズ・ジャパン(以下、PWJ)」の取り組みを通して、寄付金だけではない新しい支援のカタチを考えていきます。

今回は、PWJと連携して、災害時の被災地や、コロナ禍における医療機関に対する支援に取り組む企業のみなさんを迎え、NGOと企業の連携による取り組みと、これからの可能性についてオンラインでお聞きしました。

企業サイドからお迎えしたのは、パナソニック株式会社福田里香さん株式会社ユナイテッドアローズ佐藤由佳さん、そしてユニリーバ・ジャパン株式会社横井恵美さん。NGOサイドからは、企業連携を担当されているPWJの会沢裕貴さんに参加していただきました。

「何かできることを……」という気持ちに現場で応えるNGO

はじめに3社の方にお聞きしたのは、数多くのNGOの中でPWJを連携のパートナーとされたきっかけと、それぞれの取り組みについて。

ユニリーバの横井さんは、昨年、最初の緊急事態宣言が出た頃、取引先の方から「医療関係の方が毎日の手洗いや消毒で手荒れに悩まされている」という話を聞きました。そしてスキンケア機能があるヴァセリンが役立つのではないかという意見が社内でわきあがり、医療の現場で活動している団体をネットで検索。そして最初にコンタクトをとったのがPWJの会沢さんでした。

ユニリーバ・横井さん とにかく早く医療現場の支援に取り組みたいという気持ちを受け止めていただき、非常にフレキシブルに、しかもスピーディーに対応していただきました。おかげさまで、全国の医療機関にヴァセリン製品を寄贈することができました。

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横井さんは、CSRやサステナビリティの担当ではなく、ヴァセリンというブランドのマーケティング担当。マーケティング部門の方が進んで社会的な活動に取り組むのは非常に珍しいように思いますが、そこにはユニリーバという企業の社会に対する姿勢がベースにあるようです。

横井さん 弊社では各ブランドに携わる一人ひとりが、ブランドの個性にマッチするかたちで社会に貢献できる方法を考えることが、マーケティング活動の一環になっているんです。常に「自分が扱う商品を通して何かしら社会に貢献できないか」という視点で業務に当たっているので、今回の医療機関への支援も、会社からのトップダウンではなく、社員からのボトムアップとして自然に生まれたというところがありますね。

アルコール消毒による手荒れを防ぐために、自社商品のヴァセリンを病院へ寄贈(ユニリーバ・ジャパン株式会社)

アルコール消毒による手荒れを防ぐために、自社商品のヴァセリンを病院へ寄贈(ユニリーバ・ジャパン株式会社)

続いて、ユナイテッドアローズの佐藤さん。ユナイテッドアローズとPWJとの出会いは、2008年にさかのぼります。きっかけは、使わなくなった店頭BGM用のCDをPWJに寄付し、PWJでリサイクルショップに売却して得た金額を活動資金にするという活動でした。その後、東日本大震災をきっかけにPWJと連携した災害支援活動が始まり、今も続いています。

ユナイテッドアローズ・佐藤さん 災害が起こったときには被災地に商品を寄付したり、店頭募金を行ったりしています。また、ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシングなどで定期的に下取りキャンペーンを行っていて、お客さまが不要になった服を回収してPWJに寄付。その後、リサイクルショップに買い取ってもらい、その買い取り金を復興支援活動に役立てていただいています。

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有事の際の支援だけではなく、ふだんのマーケティング活動の一環として生活者とつながるかたちで社会的な取り組みを行うユナイテッドアローズ。日本中に店舗をもつファッションセレクトショップならではの社会貢献のスタイルですね。

令和元年台風19号では被災地に自社商品を寄付(株式会社ユナイテッドアローズ)

令和元年台風19号では被災地に自社商品を寄付(株式会社ユナイテッドアローズ)

パナソニックの福田さんは、創業時から受け継がれたパナソニックのDNAを交えて、PWJとの連携についてお話されました。創業者の松下幸之助による「事業を通じて人々のくらしの向上と社会の発展に貢献する」という理念は今も、事業活動と企業市民活動の両輪というかたちで行われています。

さまざまな課題に取り組む中で、現在重要テーマとして掲げているのが、貧困の解消。その一環として無電化地域に自社のソーラーランタンを届ける取り組みを行っており、そのパートナーのひとつとして、かねてからPWJとはつながりがありました。このたびのコロナ禍においてもすぐに支援の動きがはじまり、社員が福利厚生に使えるポイントを、PWJなどのNGOへの寄付に回せるという仕組みを、最初の緊急事態宣言のタイミングでスタート。多くの社員からのポイント寄付を募ることができました。

パナソニック・福田さん 社員がテレワークで自宅にいながら社会的な活動に参加できるように、ということで、福利厚生のシステムを利用することを考えました。あらかじめ付与されているポイントを寄付に回せるということで、改めてお金を寄付するよりもハードルが下がったということがあると思います。

加えて現金寄付の仕組みも立ち上げ、1ヶ月という短期間にもかかわらず、社員3000人超から1900万円を超える寄付が集まり、ほっとするとともに驚きました。社員からの寄付に会社がマッチングした寄付金総額は4000万円にものぼり、実施したかいがあったと思いましたね。

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経営理念をベースにしながら、社員の参加を促す仕組みを工夫する。その結果が、社員一人ひとりの想いを困っている人につなぐアクションを、会社という大きな単位で実現することにつながりました。

ミャンマーやカンボジアなどの無電化村に、PWJを通して自社商品のソーラーランタンを寄贈(パナソニック株式会社)

ミャンマーやカンボジアなどの無電化村に、PWJを通して自社商品のソーラーランタンを寄贈(パナソニック株式会社)

コロナ禍では全社的に寄付を募り、PWJを通してクリニック・病院へ支援物資を寄贈したり、PCR検査機器等を購入した(パナソニック株式会社)

コロナ禍では全社的に寄付を募り、PWJを通してクリニック・病院へ支援物資を寄贈したり、PCR検査機器等を購入した(パナソニック株式会社)

3社の皆さんからのお話しを聞いていると、企業がもつ文化やリソースにはさまざまなものがあることがわかります。一方で、社会課題の現場が必要とする支援も一様ではありません。そのマッチングはそう簡単にはいかないように思われますが、PWJではどのようなかたちで連携を図っているのでしょうか。

まずお聞きしたのは、コロナ禍における医療支援の場合。PWJには専属のドクターがいて、常に病院とコンタクトをとり、現場におけるニーズの把握に努めています。そして、企業からの寄付や支援物資を届ける際、病院にアンケートを取ることで次の支援に反映させるという取り組みも行っています。

PWJ・会沢さん 早い段階で医療現場に必要とされることを把握することはもちろんですが、つかんだ情報をすぐにフィードバックして、企業の皆さまからの意向やリソースと合うポイントを探すことを意識しています。

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災害支援の場合は、まず一般的に必要とされる支援をすぐに実施するために、スタッフが可能な限り早く現場に入る。避難所を回り調査を行い、集めた情報をもとに次の動きを考えるというプロセスを繰り返すのだそうです。

会沢さん 現場の声をただ吸い上げるだけではなくて、現場の状況や、困難な状況に置かれている人たちの「声にならない声」というか、気持ちを推し量りながら、本当に必要な支援は何なのかを見極めることが、NGOとしての力の見せ所だと思っています。

支援の現場では、物資が足りているかはもちろん、避難されている方々の様子を細かく観察し、物資以外にも必要な支援がないか、想像力を働かせています(PWJ)

支援の現場では、物資が足りているかはもちろん、避難されている方々の様子を細かく観察し、物資以外にも必要な支援がないか、想像力を働かせています(PWJ)

社会への貢献が、企業の力になる

SDGsのゴール達成が求められるいま、企業が社会的な活動を行う際によく出てくるのが、「本業として」という言葉。CSRなどの一部門における社会貢献活動ではなく全社的な取り組みが重要になってくるなか、コロナ禍における医療支援や災害における被災地支援は、企業で働く人たちにどのような影響をもたらしているのでしょうか。

パナソニック・福田さん 社員の多くがリモートワーク中ですが、報道などを見ていて「何か自分にもできることはないか」という思いが高まっているような気がします。そんな中でいち早く社員参加型の支援プログラムを実施したことで、「なかなかやるやん、うちの会社!」みたいな声が寄せられたことはうれしかったですね。社会課題への社員の関心がぐっと高まっていると感じています。

ユニリーバ・横井さん 新型コロナウイルスに対する医療現場の支援については特に、「必要とされるタイミングで支援ができてよかったね」という声が届いています。これからもタイムリーに必要な支援ができるように、社員のアイデアを実行に移せるよう取り組んでいきたいですね。

ユナイテッドアローズ・佐藤さん 被災地支援については、社内はもちろんですが、お客さまからの応援の声をたくさんいただいていて励みになっていますね。以前実施したお客さまアンケートやSNSでの反応を見ると、社会的な活動に対するお客さまの意識が高まってきていることを実感します。

地震や気候変動による災害が多くなっていることに加え、新型コロナウイルスという世界中が影響を受ける災禍を経験したことで、企業に勤める人たちの社会的な意識も高まっているようです。そんな中での社会的な活動は、社員を前向きな気持ちにしたり、顧客との心のつながりにつながっているのですね。

一方、企業との連携はNGOにどんな影響をもたらしているのでしょうか。

PWJ・会沢さん 大きく、二つの側面でポジティブな影響があります。まず一つは、現場で働くスタッフのマインドの面です。私たちは災害が起きた時や有事の時、つまり何かが起こったときに少しでも被害が少なくなるように活動している、どちらかと言えば地味な存在です。

有名な企業が一緒に取り組みを行ってくれるということで自信が持てることがあります。そして、外面的な影響もあります。NGOやNPOは日本ではまだまだ怪しまれたりする傾向があるのですが、企業と連携することで社会的な信用を得ることができ、活動がしやすくなります。

さまざまな企業と連携して支援を行っているPWJでは、コロナ禍の医療支援において、複数の企業からの支援を組み合わせてひとつの医療機関に届けるといったパッケージ型の支援も行っています。例えば、A社から寄贈された物品と、B社からの寄付金で購入したマスクをセットにして届ける、といったかたちです。今後は、PWJ側が組み合わせるところから踏み込んで、企業間のコラボレーションをPWJがコーディネートするという連携のかたちも模索していきたいそうです。

 

「複合災害」に、立場を超えたコラボレーションで立ち向かう

新型コロナウイルスの感染拡大が長期化する一方で、気候変動や地震による災害のリスクも高まっています。今後はどのような支援が求められるようになるのでしょうか。

PWJ・会沢さん 今後は「複合災害」への対応が求められるようになります。自然災害に新型コロナウイルス対策が重なることで、被災地支援はより難しくなります。

ウイルスへの感染を防止するため、住まいの被害が少ない人は在宅避難を推奨されることになりますよね。そうなると、被災された方々のニーズを把握しにくくなるんです。避難所だけならともかく、一軒一軒まわるのは人手も時間も必要になるので。そんな中、どうやって早く、効率的に支援ができるようにするのか、そこが課題です。

2019年の台風15号では、避難所近くの家をの1軒1軒まわり、自宅で避難されていた方に、食料などを届けました(PWJ)

2019年の台風15号では、避難所近くの家をの1軒1軒まわり、自宅で避難されていた方に、食料などを届けました(PWJ)

新たな課題が生まれるなか、何ができるのか。これから、どんなことに取り組んでいきたいのか。企業やNGOという立場では難しいところもあるかと思いますが、みなさんに、個人としての想いを語っていただきました。

パナソニック・福田さん コロナ禍での医療支援でのPWJさんの活動を見ていてありがたいと思うのは、大きな医療機関だけではなく、本当に困っている中小の医療機関にもアプローチされているところです。

私たちは「企業の社会的責任」と言ったりしますが、その責任は企業だけでは果たせないところがあるんですよね。創業者は「共存共栄」と言っていましたが、立ち位置が違ったり、できることが違う人が一緒になったりすることで解決できることがあるのではないでしょうか。

コロナ禍で、これまでより人はオンラインでつながることが多くなっていますが、そこから一人ひとりの声が束になって世の中を動かすような変化が起きていることを実感します。立場を超えて人と人がつながり、社会の課題を解決していく。そんなアクションをつくっていきたいですね。

ユニリーバ・横井さん 新型コロナウイルスの感染拡大で、あっという間に日常が非日常になるということを国民レベルで経験したことで、日本人の意識も大きく変わってきているように感じます。企業の社会的責任を多くの人が認識しはじめていますが、社会的な活動を「伝える」責任もあるのではないでしょうか。

日本では「陰徳の美」という考え方があって、善い行いを表に出すことをためらう傾向がありますが、企業が社会的な活動を伝えることがもっと当たり前になるといいですね。企業がそれぞれの社会的な活動を前向きに伝え、コラボレーティヴな力で1+1が5になるようなアクションを生み出すようにしていきたいと思います。

ユナイテッドアローズ・佐藤さん 個人的な話になりますが、父が岩手県の釜石市出身だということもあって、私は東日本大震災への想いを強く持っています。そして、実家が千葉にあるので、2019年の台風19号の被害にあった知り合いも多く、日本で頻発する自然災害の被災地支援をこれからも大切にしていきたいです。災害直後も大変ですが、そこから立ち直るまでの道のりも厳しいはずです。被災地に思いをはせて、これからの備えと支援につなげる機会もつくっていければと思っています。

PWJ・会沢さん 医療現場や被災地への支援をより強化していくためにも、企業で働く社員の方や、顧客の皆さんを通じて活動を広げていきたいですね。現場で起きていること、そして、支援がどのように役立っているのかを伝えること。その輪が広がっていくような動きをつくっていきたい。ただ支援物資を届けるのではなくて、応援の声が届くような、あたたかく、力強い関係を、多くの人との協力でつくっていきたいです。

取材はオンラインで実施しました。最後に登壇者の皆さんで記念撮影

取材はオンラインで実施しました。最後に登壇者の皆さんと記念撮影

3社の方とPWJの会沢さんのお話しをお聞きして、企業とNGOの連携がどのような背景で、どのような形で行われているのかを具体的に理解することができました。

それぞれの企業に合ったかたちで支援ができること、NGOがそれらの支援を確実に現場のニーズに合うかたちで届けるということ。こうしたコラボレーションが、企業間、そして生活者ともつながることで新しい支援のカタチが生まれる可能性があること。社会に課題は尽きませんが、希望を持ち続けてもいいのだという気持ちになりました。

今年で東日本大震災の発生から10年を迎えます。震災直後から現地に入り、いまも支援を続けるPWJの取り組みが、特設ページ「東北10年 感謝を原動力に」にまとめられています。NGOが被災地でどんな活動をしているのか、その活動に対して市民や企業がどのように支援を行っているのかが詳しくわかる内容になっていますので、ぜひ訪れてみてください。

いかしあう支援のカタチ 連載一覧

第1回 自分にもできる医療機関支援を考えよう!コロナ禍で200社以上の企業の資源と医療現場のニーズをつなげる「ピースウィンズ・ジャパン」のいかしあう支援のカタチ

第2回 「何かやりたくてしようがない」。建設機械メーカーのコマツがピースウィンズ・ジャパンとのつながりで実現させた、手に入らないはずの医療物資支援。

(POZI サステナビリティ・プランナー 丸原孝紀