ホーム幸せ経済社会研究所「幸せ」はどこにある?文化を考慮した新しい幸福の尺度に、欲しい未来の姿を思う。『これからの幸福について』読書会レポート

幸せ経済社会研究所

「幸せ」はどこにある?文化を考慮した新しい幸福の尺度に、欲しい未来の姿を思う。『これからの幸福について』読書会レポート

「幸せ」はどこにある?文化を考慮した新しい幸福の尺度に、欲しい未来の姿を思う。『これからの幸福について』読書会レポート

「幸せと経済と社会について考える読書会」127回目は、「幸福感」がテーマになりました。課題書は、文化心理学の専門家・内田由紀子さんが「幸福を感じる力」について書いたこれからの幸福について―文化的幸福観のすすめ』です。

枝廣さんは以前内田さんと、国民のGNH(国民総幸福量)を計ることで知られるブータンでご一緒したそうで、この本のことも「文化的な価値観を切り口にした幸福論で、読みやすい」と評していました。日本の文化や国民性における幸福のあり方について議論を重ねた読書会の様子をご紹介します。

自分にとっての「幸福」とは

本書では冒頭から、国や時代によって幸福というものが変化する可能性を示唆しています。国際的な幸福度調査では常に低い位置にランクインする日本ですが、だからといって日本人が不幸である、と断言するのもちょっと違う。その理由を解説してくれる一冊です。

読書会の初めには、各自の「幸福とは」を考える時間を持ちました。参加者の声からも、幸福には「一時的な喜びの感情」と、「個人の長期的なポジティブ感情や人生における評価」という二つの軸があるとわかります。それは本書の中でも、どちらが良いわけではなくバランスが重要だ、とされていました。

また、幸福な状態を示すもののひとつとして、「経済力」と幸せの関係性もさまざまな側面から問いています。GDPに代表される経済的な豊かさがあれば、私たちは本当に幸せなのでしょうか?筆者の内田さんは、「イースタリンパラドックス」という幸福論調査のキーワードを紹介し、あるところまではGDPの増加と幸福度が比例するものの、経済成長が一定のラインを超えると、もう幸福度が向上しなくなる、という調査結果を挙げています。

経済後進国と先進国では、幸福度調査においても幸福のありようも分散していました。内田さんはこの背景に、国や地域の文化的な違いを挙げ、「文化的幸福感」という言葉を用いて新たな幸福の測り方を開発してきました。

何を「幸福」と感じるのか。そこは多様な視点が必要であり、何を大事にするかは個人の自由であるはず。また、幸福度調査の中心国は北米であることから、欧米的な価値観と異なる幸福の次元が測られていないことを指摘しています。

問いを刷新した、細やかな調査

現在、内田さんたちが採用しているのは「マルチレベル分析」と呼ばれる調査方法でした。一人ひとりの価値観に加えて、複数人が所属するグループ単位での分析をする新しい手法です。これにより団体や会社などにおいて、集団レベルの幸せの価値観と、そこに所属する個人レベルの幸せがどう関わっているかを見ることもできるそうです。

さらに内田さんは、幸せの分析には新しい視点が必要だと言います。従来の幸福度調査で用いられてきた、ステイタスや暮らしの向上といった「獲得型の幸せ」だけではなく、身近な存在と共に在る、「調和型の幸せ」があるためです。

主に欧米における拡大型あるいは成長型の社会に合う尺度を「人生満足度尺度」と呼び、対して調和や安心・安全、脱成長といった社会性には「協調的幸福尺度」という軸を設けるのが適している、と提案しています。

この日の読書会の冒頭でそれぞれに考えてもらった「幸福とは」の答えにもまさに、「周囲に受け入れられている環境」や「家族に嬉しいことがあった時」「なんでもない日常を過ごせた日」といった調和型の幸福を挙げる声がたくさんありました。世界幸福度調査が発表されるたびに、下位にいる日本を憂いた方も少なくないと思いますが、幸福度を図る指標が変われば、きっと日本の順位も変わってくるだろう、と感じさせます。

本書を通して「幸せ」とは、要件さえ揃えば誰でもなれるわけではない、ということを実感しました。この日の最後のディスカッションでは、「幸福を感じる力を育む大切さ」を説く筆者の言葉をおさらいしながら、「幸福を感じ取る力はどのように育めるのか」というテーマで時間を取りました。本書に正解が書かれているわけではなく、それぞれが自らの言葉で意見を出し合います。

枝廣さんからはひとつ、「スローダウンすること」ということが挙げられました。確かに慌ただしいとじっくり幸せを噛み締める力が衰えていく気がします。さらに続けてもう一つ、「在るということ」というお話も。「現代社会ではHuman beingではなくHuman doingになってしまっている」という心理学者の意見を紹介しながら、自然の揺らぎや人の温かさを感じる力は、自身の在り方によって養われる、という意見を添えてくれました。

「成功や幸せのかたちを画一化せず、いろんな形があっていい、と多様性を広めることも大切ですよね。そうしたきっかけをこれからも考えていきたいです」

幸せ研の読書会は「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について知り、考え、意見しあう場です。2020年4月以降はオンライン開催となりましたので、遠方在住の方も参加可能となりました。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページからご覧ください。

(やなぎさわまどか)