ホーム幸せ経済社会研究所お金とは、自由とは、幸せとは。社会学者がこの世界を解きほぐし、子どもたちに伝える『ふしぎな社会』読書会レポート

幸せ経済社会研究所

お金とは、自由とは、幸せとは。社会学者がこの世界を解きほぐし、子どもたちに伝える『ふしぎな社会』読書会レポート

お金とは、自由とは、幸せとは。社会学者がこの世界を解きほぐし、子どもたちに伝える『ふしぎな社会』読書会レポート

112回目となった「幸せと経済と社会について考える読書会」では、社会学者・橋爪大三郎さんが子ども向けに語りかける書籍『ふしぎな社会』が課題書となりました。資本主義や働き方、幸福についてなど、これまでこの講座でも取り上げてきた社会を形成するあらゆるキーワードを紐解きながら、この世界の輪郭をわかりやすく浮き彫りにするような一冊です。

今回、本書の解説をしながら「この考え方、とっても面白いですよね」と何度か繰り返していた枝廣さん。同じテーマでの議論を数え切れないくらい重ねてきた枝廣さんも「今までこういう風に考えたことはなかった」と感じるほど、橋爪さんならではの視点がたくさん詰まってます。この日の読書会では、たくさんのテーマがある本書から厳選された「言葉」「貨幣」「資本主義」「正義」「自由」「幸福」という6つの項目が解説されました。

まずは「言葉」。橋爪さんは、地球上のほとんどの人が常に使いながら暮らす言葉というものを「人間ならではの能力」と定義しています。言葉があることで、目の前にないものをあると仮定したり、現実との違いを理解しながら考えることができ、これは外の世界と頭の中を切り離して思考するとても高い処理能力だというのです。目の前にないことまで考えられるおかげで無用な悩みを抱えることもあるけれど、それも含めて人間らしいことなんですね。

自分で考えるだけではなく、誰かと未来の約束をしたり、自分の気持ちを伝えたり、人間関係を築けるのも言葉があるから成り立つこと。もちろん学びや成長ももちろん言葉のおかげです。そうした便利な一方で、言葉によって一線が引かれたり、言葉がもつ意味以外の考え方ができなくなるような、強烈な側面があるのも事実。本書ではこれを「言葉のわな」と呼んでいました。

読書会の参加者にはここで「言葉の性質ってなんだろう?」というミニディスカッションの時間を取りました。皆さんの話を聞いた枝廣さんは、「言葉のわな」を避けるために必要な価値観として、言葉にできないものの存在も忘れずにいること、そして、言葉にできなくても大切なものがあるがたくさんある、という二点のことに触れました。本書にもある通り、言葉は人間の大切な活動であって、誰でも平等だし、言葉を使うのにお金を掛ける必要もなく、そして何より、心を豊かにしながら生きるには、言葉が欠かせないということを再認識しました。

続いて「貨幣」では、商品と交換できる商品経済と、さらに商品経済が進んだ先にある市場経済について解説していました。なぜ資本主義が儲かるのか、資本家とはどういう働き方なのか、と少し難しい話が続いた後で、橋爪さんはお金の性質をこう書いていました。「お金はいつも、ちょっとだけ足りないものなのです。誰もが、もうちょっとお金があればいいのにな、と思うように出来ているんです。」

もうちょっとあるといいなと願うから、やりたくない仕事でもがんばる人がいて、それによって成り立たせているシステムがある。このくだりは、わたしたちが議論を続けてきた「幸せになるための貨幣依存度」の話につながります。今この社会で貨幣はとても重要な役割をしているけど、貨幣以外のものに価値がないわけではありません。個としての幸せを横に置いてでも貨幣を重要視するのかどうか。みんなで再びディスカッションをしてから、次のテーマ「資本主義」へと続きました。

資本主義ってなんですか?と子どもたちに質問されたら、何て答えるでしょうか。橋爪さんは本書のなかで、資本という元手を市場での経済活動を通して増やすこと、と書いていました。この「市場での経済活動を通して」がポイントのようです。経済の生産活動を成り立たせるためには、資本家がもっている資本・労働する労働者・土地をもっている地主の三者が合意して生産活動を行うこと。これが資本主義経済の特徴だという定義です。

気候危機など自然環境への影響や、社会を分断する人間への影響など、資本主義が持ち合わせているさまざまな社会課題はどんどん切迫しています。根本にある問題は資本主義そのものなのか、それとも、資本主義を運用している仕組みなのか。いすれにしても「これからも経済の勉強を続けていきたい」と語る枝廣さんと共に、読書会でも引き続き問い続けるテーマでもあります。

読書会はこの後も、「正義」「自由」「幸福」というテーマについてディスカッションを挟みながら、橋爪さんが子どもたちに伝える「社会の法則」について続きました。この日取り上げた6項目以外にも、本書では「戦争」や「憲法」、あるいは「性」や「結婚」など個人と社会の繋がり、さらに「死」や「宗教」など普遍的で社会的な人間の側面もテーマにしています。読者に子どもたちを想定しているからこそ真っ直ぐでわかりやすく、でもけっして子ども扱いしていない言葉が続き、私たち大人も前向きな議論に取り組める一冊でした。

幸せ研の読書会は「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について知り、考え、意見しあう場です。2020年4月以降はオンライン開催となりましたので、遠方在住の方も参加可能となりました。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページからご覧ください。

 

(やなぎさわまどか)