ホーム幸せ経済社会研究所直線的か、円環的か。時間を哲学することで見えてくる、人間と自然のゆたかな関係。内山節『時間についての十二章』 読書会レポート

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直線的か、円環的か。時間を哲学することで見えてくる、人間と自然のゆたかな関係。内山節『時間についての十二章』 読書会レポート

直線的か、円環的か。時間を哲学することで見えてくる、人間と自然のゆたかな関係。内山節『時間についての十二章』 読書会レポート

126回目の「幸せと経済と社会について考える読書会」では、哲学者・内山節(たかし)さんが時間という存在を紐解いた『時間についての十二章』を課題書にしました。卒論のテーマにするほど「時間」に注目してきたという枝廣さんはこの本を、孤独を感じている人の増加や、自然破壊が止まらない理由とその構造が見えてくる一冊だと言います。この構造からの脱出方法も合わせて、参加者同士でディスカッションを重ねる時間になりました。

内山さんは「時間とは何か」という問題意識をもっていました。その上で本書では、時間の存在を関係からつかみとることを目的に進んでいきます。「里山の時間」「関係的時間と客観的時間」「近代社会の時間」「非構造の時間」といった全12章を通して、あらゆる側面からの提起をしていますが、読書会では枝廣さんが特に印象的だった部分を取り上げました。まずは、「2種類の時間」という内山さんの視点に注目します。

内山さんはもうずいぶん長い間、東京都内と群馬県上野村の二拠点生活をする中で、上野村で過ごす時間を「創造する時間」と感じているそうです。それは畑で作物を作る、川で釣りをする、山を歩くなど、自分の行為によって自分と誰か、あるいは自分と自然など、他者との関係を結びながら作り出す時間のこと。一方で都内にいるときは、限られた時間にいかに効率良く進めるかを問われる、客観的で「消費する時間」だと感じていました。さらに、上野村での創造する時間では、タネの成長期間や日が陰る時間帯など、「時間が等速ではない」とも書いています。

枝廣さんが「そんな風に考えたことがなかった」と言うのは、内山さんが「時間は他者との関係によって存在する」と説いていることでした。友達と過ごす楽しい時間は自分と友達の関係性があるからこそ、また、苦悩に感じる時間も、自分とその行いとの関係性があってこそ。時計が示す等速な時間とは違い、人間が生きていることの中に時間が生まれている、という捉え方をしていました。

そしてもうひとつ、「縦軸の時間」と「横軸の時間」という見方もしています。縦軸の時間とは、時計が示す等速の時間のこと。過去と未来をまっすぐに繋ぎ、不可逆的でひたすら過ぎ去っていく時間です。その中で私たちに求められることは、昨日よりも進歩し、より良い成果を生み出す「成長」。内山さんは、縦の時間では「現代の時間が未来のための通過点であり踏み台になっている」と語ります。

一方で横軸の時間とは、自然環境と結びつき、回帰する時間のこと。春が過ぎてもまた一年後には春が戻り、春が来ることで春の仕事の世界に戻る。それを「円環」する時間と表現していました。成長が伴う縦の時間に比べると、停滞や退屈を含みながらも、横軸の時間には永遠性があります。

この日、参加者同士のディスカッションで挙がったのは、「住む場所に関係なく主体的に行動しているかどうかの違いなのだろうか?」「サーキュラーやリジェネラティブといった概念が重要視され始めたのは横軸の時間の傾向なのか?」あるいは「円環というより螺旋状に継続しているのでは?」といった様々な意見が交差しました。枝廣さんからは、こうした一見わかりにくそうな内容を読む時のコツとして、「部分的だったり、うまく言えなかったとしても、その時に感じたことを言葉にしたりメモしていくのが良い」とそれぞれの発言を促していました。

本書の後半では、二種類の時間がいかに私たちの働き方と生き方に影響を及ぼしてきたかが内山さんの言葉で展開されています。時間による賃金労働が主流になるにつれ、円環していた人間の時間が有限なものとなっていきましたが、さらに今、「回帰する時間」も世界中で珍しくなくなってきました。

直線的な時間を経験した後でのUターン・Iターンが増加したり、経済力よりもやりがいを優先する生き方など、縦軸と横軸、二重時間の確立が、里山を含めて各地で起きているのです。

それは、縦軸で消費的な時間を中心とした現代社会のあり方が、森や自然環境にも暴力的であり、自然が成り立たなくなるほどの影響を与えてきたことが関係しています。わたしたちはこれから、どうすればいいのか。内山さんは「循環する時間世界を再び築く、あるいは、循環する世界での存在のかたちを創造すること」だと説きます。

いきなり全ての時間を横軸の時間世界に戻すことは難しくとも、わたしたち一人ひとりが、自然や人間との豊かな時間を増やし、新しい関係を作ること。枝廣さんも、FIRE(欧米などで進む早期リタイヤする生活様式)が増加していることや、日本でも若い世代が田舎暮らしを好む傾向などに触れ、「横軸の時間で生きようとする人口が増えていくことで何かが変化するのではないか」と期待を語りました。「もしくは円環する横軸の時間でずっと生きていけるための社会的な仕組みを作りだし、少なくとも選択肢があるようになってほしいですよね」。

ついつい毎日がせわしなく過ぎていく、その理由を本書で痛感したように思う読書会でした。せわしい毎日だからこそ、少しでも実践に取り組んでいきたいと思います。

幸せ研の読書会は「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について知り、考え、意見しあう場です。2020年4月以降はオンライン開催となりましたので、遠方在住の方も参加可能となりました。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページからご覧ください。

(やなぎさわまどか)