ホーム幸せ経済社会研究所世のため?人のため?自分のため?SDGs時代のキーワード、「利他」の本質を5人の専門家が問う。『「利他」とは何か』読書会レポート

幸せ経済社会研究所

世のため?人のため?自分のため?SDGs時代のキーワード、「利他」の本質を5人の専門家が問う。『「利他」とは何か』読書会レポート

世のため?人のため?自分のため?SDGs時代のキーワード、「利他」の本質を5人の専門家が問う。『「利他」とは何か』読書会レポート

110回を迎えた幸せ経済社会研究所の読書会、課題書になった一冊は『「利他」とは何か』(集英社新書)です。5つの異なる分野の専門家たちがそれぞれの視点から「利他」を解説し、それは優しさや思いやりと別の側面をもっていることも示していました。時間の関係上、第1〜3章までを解説しながら、いつも通りグループディスカッションを重ねて「利他」を軸とした経済や社会、さらには昨今のCSR、SDGs、ステークホルダー資本主義といった議論へと広がった読書会の様子をお送りいたします。

利己的の反意語として比較的新しく生まれた言葉だという「利他」。意味は読んで字の如し、他の人の利となる行動を指しています。しかし一体、「他」とは誰のことで、「利」とは何を意味しているのでしょうか?枝廣さんが特に印象的だったという第1〜3章を解説してくれました。

現代アートを専門とする東京工業大学リベラルアーツセンター准教授、伊藤亜紗さんが書かれた第1章では、利他を「うつわ」のようなものだと例えています。さて、そのココロは。順番に見ていきましょう。まず筆者曰く、利他にも色々あるようです。

世界的パンデミックのコロナ禍を生きる私たちにとって、他者が罹患しなければ自分も安全である、つまり他者のためを思うことは自分のためにもなることを実感しているのではないでしょうか。これは「合理的な利他主義」のあり方です。それから、枝廣さんが興味をもったというのが「効果的利他主義」。これは2000年代以降のエリート層を中心に広まっている利他のかたちで、たとえば同じ手持ちの1万円を寄付するなら、共感した団体や活動ではなく、一人でも多くの人に効果がもたらされる団体や活動に寄付する、といった効率化を含んだ利他のかたちでした。一番たくさんの幸福を作るために数値化されたものに基づき、あえて自身の共感や感情からは切り離して行動することによって、見逃していた活動を支援できるといった良い面が支持されています。

またおそらく私たちが利他について考えるとき、最も注意すべきことは、相手の「負債」となってしまわないようにすることでしょう。相手のためを思って行った行動が、不適切な上下関係を作り出してしまったり、しかるべき反応を期待したり、ましてや想定外の反応を理由に暴力的な言動を取ることはあってはなりません。本書では繰り返しこの点に触れ、原則として、見返りを期待しないことを伝えています。また、相手の言葉に耳を傾け、自分とのの違いを知ることが重要であり、相手の余白を受け止めるという点において、様々な料理を受け止める「うつわ」に例えられてたのです。

ここまで短くも回数を重ねたグループディスカッションでは、震災時などに多く実践される利他や、良かれと思って部下に行う利他を例に挙げながら、支配にならない利他のかたちを確認しあうように感想を挙げました。

政治学者である中島岳志さんが書いた第二章では、贈与をキーワードにして、純粋な利他のかたちを探り、それがどこから来るのかを伝えていました。欲しがっていた人に自分の藁(わら)をあげたことで結果的に財産をつくった「わらしべ長者」は有名な話ですが、最初に藁をふいにあげたその気持ちこそが純粋な利他だという筆者。枝廣さんも、ここには人間の合理性の外側にある力で背中を押された行動、と付け加えます。これぞ仏教でいう縁(えにし)のメカニズムのようです。

批評家で随筆家の若松英輔さんが書いた第3章では、民藝の本質を仏教的な思想で解明したことで知られる柳宗悦(やなぎ むねよし)の思想を挙げながら、利他とは何かを解説していました。利他は常に一回性であり、言葉ではなく行動で示されるものだという考え方に、支配関係に陥らないための一期一会的あり方を納得するかのようでした。

最後には様々な企業が参画するSDGsや社会貢献活動と、利他との関係性をディスカッションしました。今回の勉強会では終始、「常に柔軟であり、柔らかく開かれた気持ち」でいることの大切さを説いていた枝廣さんは、ここでもやはり、企業や個人を問わず、相手を受け入れるしなやかな心持ちと、変容できる自身でいることを挙げます。仮に企業のSDGsやCSRなどが想定外の反応だった場合、どう対処できる企業でありたいか。また、その企業を構成する私たち個人はどうあるべきか。いつになく本質を問われる勉強会となりました。

幸せ研の読書会は「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について知り、考え、意見しあう場です。2020年4月以降はオンライン開催となりましたので、遠方在住の方も参加可能となりました。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページからご覧ください。

 

(やなぎさわまどか)