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住みやすいまちを作るのは市民?それとも行政?各地の取り組みをデータで知る『データで読む地域再生』読書会レポート

住みやすいまちを作るのは市民?それとも行政?各地の取り組みをデータで知る『データで読む地域再生』読書会レポート

「幸せと経済と社会について考える読書会」、128回目の課題書は『データで読む地域再生―「強い県・強い市町村」の秘密を探る』。各地の具体的な事例を取り上げながら、人口減少にもめげず、また、コロナ禍という未曾有の事態を乗り越えて、地方創生に取り組む地域の施策を紹介している一冊です。

枝廣さんも「知らないことがたくさんあった」という本書を読み、今回は参加者おひとりお一人が気になったデータや事例、個人の体験などをシェアしてもらいながら進めた読書会の様子をお伝えします。

<圧倒的に“PDFの国”の背景>

事例がたくさん紹介されていることから、そのまちの具体的な現状や、背景にある制度などを知ることができる本書。各地のまちづくりに伴走する枝廣さんも「情報源としても面白いと思いながら読んだ」とのこと。最初のディスカッションは、参加者のひとりから挙がった「オープンデータに関するくだりが興味深かった」という感想から始まりました。

省庁や行政などのウェブサイトを見ていると、たびたびダウンロード可能なPDF資料を見かけることがあります。しかし本書曰く、PDFや画像ファイルで公開しているのは日本の特徴なんだとか。諸外国の多くは、ダウンロードした人が目的に合わせて加工できるよう、ExcelやCSVのままファイルを公開するのが一般的。つまり、使いやすさが重要視されているのでした。

この背景にあるのは「オープンデータに対する認識の違い」です。公的な情報はみんなの資産であると考える欧米諸国に対して、なぜか日本では、自治体など公(おおやけ)が保有するデータを民間企業が商用利用することに抵抗感を覚えます。つまり「この情報を公開するのは誰のため、そして、何のため」というそもそもの認識が共有できていません。まずはこの議論を深める必要がありそうです。

<「こう暮らしたい」が叶う自治体か、否か>

本書は「人口減対策」から始まり、「移住促進」「雇用・人材確保」「自治体の業務改善」など、章ごとに8つのテーマが設けられています。今回の読書会では参加者それぞれに、気になるテーマや内容を挙げてもらい、順番に議論する流れになりました。

例えば、テレワークなどの在宅勤務。コロナ禍で一気に増加し、それを機に都心を離れて暮らし始めた人もいれば、週1〜2日は出勤する方が良い、と感じている人もいます。また教育の現場では、体調不良ならいつでもオンライン授業に切り替えられるよう、学校や教員が環境を整えた学校もあれば、予算などの理由でそうした環境を整えられず、旧来のままの学校もあります。

こうした生活様式の変化や教育機会の差は、今後どのように影響するのでしょうか。学校や企業などにおける個別の事情はありますが、そもそも各地の自治体がどんな価値観で組織や住民に向き合おうとしているのか。

価値観の変容が不可避であったコロナ禍を経た今、多くの人は理想の生活を描き直し、それが叶えられる地域を選ぶようになりました。自ら選ぶ住民と、選ばれるために工夫を重ねる自治体の関係性は、新たな変化として注目したい事です。

「この自治体に暮らしたらどんな生活が叶うか」という視点をもって本書を開くと、より一層データが興味深く感じられると思います。

<求められるのは、モノよりもコト>

後半のディスカッションでは、「新しく移住者を呼び込むために自治体にできること」を考えてみました。子育て支援、住居の提供、医療の充実、教育環境の整備、信頼できるコミュニティ、職業紹介、給食の無償化、IT環境などなど、次々にアイディアが挙がります。「こうしていろんな職業の人たちと話すと、観点がそれぞれで面白いですね」と枝廣さん。

また近年の教育現場では、かつての修学旅行を「研修旅行」という形式に変化しつつあることも話題になりました。社会人同様、「モノからコトへ」と言われる体験型へのシフトにどんな背景があるのか。

熱海で企業研修を受け入れる枝廣さんは、「現代の暮らしにはあまりにも”体験”が少ないので、五感を使うことが新鮮なことになったんだと思う」と、身体性の大切さを共有してくれました。

本書の内容から各地の取り組みを見てきましたが、最後はデータを俯瞰しながら感じたことを共有しあい、クロージングとなりました。

幸せ研の読書会は「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について知り、考え、意見しあう場です。現在はオンライン開催となり、参加費もより参加しやすい金額になりました。どうぞお気軽にご参加ください。詳細は幸せ経済社会研究所のページからご覧いただけます。

(やなぎさわまどか)