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立場は違っても、合意はつくれる。桑子俊雄先生に聞く「社会的合意形成のすすめ方」 

2017年7月の読書会テーマは「社会的合意形成」。「合意形成」というものは、仕事を進めるうえではもちろん、自治体やご近所づきあいなどのコミュニティで暮らしていくうえでも欠かせませんよね。「社会的合意形成」というのは、閉じられた顔の見える関係での合意形成ではなく、開かれた場での合意形成のこと。

今回は読書会ではなく、ゲスト講師として「社会的合意形成のプロジェクトマネジメント」などの著者である、一般社団法人コンセンサス・コーディネーターズ代表理事・桑子敏雄さんをお招きて、話を聞きながら考える会になりました。

2003年から国土交通省からの依頼で、大阪湾の淀川水圏の河川整備計画を作るプロジェクトメンバーとなった桑子さん。それまでのダム建設などにまつわる周辺住民への説明は、アリバイづくりのようなものでした。つまり、「住民にダム建設をご理解いただくための説明会」にすぎなかったわけです。しかし、新しい河川法によって流域の住民の意見を反映することが規則となり、地域住民との合意形成が不可欠に。そこで国交相から、住民を交えた話し合いの進行役として、合意形成の研究を進めていた桑子先生のもとに相談がきたのです。

まず取り組んだのは、丹生、大戸川、余野川、天ヶ瀬、そして川上ダムに関する住民対話集会でした。特に重視したのは、河川事務所と参加住民との信頼関係の構築。桑子さんは集会の前に、河川事務所の所員にこんな依頼をしました。「集会では事務所職員同士では話をしないこと。そして、住民と出来る限りコミュニケーションをとってください」と。そうすることで雰囲気が一変し、職員と住民との間に「厳しい意見を出しつつ、笑顔も見える」話し合いの場が生まれることに。

とはいえ表面的な対応が多少変わったところで信頼感には繋がりません。この現地見学の際、ダムがどうして必要なのかを説明していた若手の職員に、住民からきつい質問が次々と浴びせられました。「科学的で分かりやすい説明を心がけているはずなのに、どうして理解して頂けないのでしょうか」と、困りきった職員の質問に対して桑子さんはこう答えました。「住民が何故そのような質問、意見を持つのか、理由を考えたことはありますか」と。若手職員は「そんなことを考える必要があるとは思わなかった」と驚いたそうです。

その後の対話集会では「意見を聞くときは、その意見に到った背景・理由・経緯まで聞くこと」を意識するように職員に伝え、実行することによってより良い話し合いの方向を生み出すことができたそうです。「対話集会が何のための集会であり、何を目的とし、参加者はどのような態度で参加すればよいか」を振り返ることで、そのための意見交換の場として取り組むことで合意形成がスムーズに進んだのです。

これまでの桑子さんのお話をまとめると、合意形成の技術として2つの要素が見えてきました。

ひとつめは、相手の意見だけではなく、その理由を聞くこと。大事なのは意見レベルの合意ではなく、意見の理由レベルの対立構造を明らかにして、その対立構造を克服していくようなプロセスを組み立てていくことなのです。例えば研究室で窓を開けたい生徒と閉めたい生徒がいたとき、意見だけでは白か黒かの対立になってしまいますよね。ところが、なぜ開けたいのか、なぜ閉めたいのかの理由もつけて話し合うことによって、お互いの考え(空気を喚起したい、風があたって寒い、など)を理解することができます。そうすることで、隣の部屋の窓を開けるといった折衷案にたどり着くこともできますよね。このように、ただ意見だけを求めるのではなく、そのような意見を持つに至った理由を尋ねることが大事なのです。

ふたつめは、批判的にならないこと。自分と対立する意見を持つ人に対して批判的になることは、人間だれしもあり得ることですよね。まず、自身が相手に対して批判的にならないよう意識することはもちろん、批判的な人に対しては相手を主語に差し替えて、相手の意見を伺うことがポイントとなります。先に挙げたように、その人の立場や環境によって意見は異なるもの。相手の立場で考える余裕を持つことが大事なのです。

合意形成に関わるプロジェクト・マネジメントでは、正しい答えやあるべき答えなど、ひとつの結論に導こうという姿勢ではなくて、より良い答えを一緒に作るという姿勢が問われます。最終的な結論に至るプロセスに対して、関係者が積極的な参加者になってもらえるよう、プロジェクトの推進者の立場ではもちろん、参加者としても良い話し合いになるよう意識して行動しなければなりません。

桑子さんからは、すぐにでも使えそうなこんなアドバイスも。
・テーブルごとにファシリテーターと記録係をつけて、
話し合いの場でノートを取らせないようにする。
・記録係がキーワードをポストイットに書いて貼っていくことで、
言った言わないを避けることができ、議事録に整理することができる。
・できるだけ多様な人が集まるように工夫する。
特におじさんは頭が凝り固まっているので、理想を語る子供や、
発言が柔軟な女性を入れていくことが重要。
・ファシリテーションは部外者として事情は知らないふりをして参加する。
部外者でも、地元の神社のことを調べていたりすると尊敬される。
・ふだん話をしない人同士が気兼ねなく話せるよう、対面ではなく、
壁に貼った資料を見ながら話をしてもらうなど、間接的に話せる工夫をする。
・最後に「こういう対立があったけど、こういう共通認識が得られた」などと、
おみやげに持って帰ってもらう言葉で締める。そうすることで、
参加者が家族や友だちに報告することができる。

そして、原発の街でもある柏崎でファシリテーションをした経験がある枝廣先生からも、実体験を踏まえたアドバイスをいただきました。

柏崎では、原発賛成派と反対派は、お互い口を効くことさえありませんでした。対立の構造が完全にできあがっていて、「合意形成は無理だ」されていたのです。そこで枝廣先生は、賛成、反対は置いておいて、「50年後の柏崎を考えよう」と提案しました。結果、子や孫が誇りを持って帰ってこられる街にしたい、という思いは賛成派、反対派ともに同じであることが明らかになりましたお互い家族を大切に思う人間なのだ、ということがわかることでブレイクスルーが起こり、それぞれの考えを理解し合うようになったそうです。合意形成が不可能でも、ともに前に進んでいけるような空気をつくっていくことはできるのですね。

桑子敏雄さんを外部講師としてお呼びした勉強会となった幸せ研の読書会。このようなゲスト講師からリアルなお話を伺ったり、課題図書を読み解きながらテーマについて意見を交換したりと、毎回みなさんに発見のある読書会です。みなさん、ぜひ参加してみてください。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページから!

(協力:POZIインターン 関山千華)