ホーム幸せ経済社会研究所持続可能な経済は、自然とつながる地域から。「地域づくりの経済学入門―地域内再投資力論」読書会レポート

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持続可能な経済は、自然とつながる地域から。「地域づくりの経済学入門―地域内再投資力論」読書会レポート

今回の課題図書は、岡田知弘さんの「地域づくりの経済学入門―地域内再投資力論」。

農村や漁村が衰退しはじめていたり、駅前の商店街がシャッター街になっていたり、ある程度の規模のある駅前はどこも全国チェーンの飲食店が並んでいたり…。地域というと、さまざまな問題が思い浮かびますね。

「地域」といっても、その範囲は人によって違ってくるのではないでしょうか。本書では地域を、「特有の地形をもった山や川や海、平坦地という具体的な自然環境と結びついた人間社会」と定義しています。

人間も生物であり、自然の一部です。自然に働きかけて生活のための手段を手にいれる一方、廃棄物や排泄物を自然に返す。その循環により地力を高めて次の生活手段を得る活動の繰り返しを、人間と自然との「物質的代謝関係」と呼びます。これは、本来の経済のかたちですね。この物質的代謝関係が一定の空間で受け継がれて、総合的に結びついているのが地域、ということですね。地域というのは、自然環境面でも、歴史的にも、文化的にも、地球でただひとつしかない、かけがえのない存在なのです。

しかし、街で暮らしていたり、複雑な仕組みの中にいたりすると、人と自然の総合的なつながりを忘れてしまいがちです。その結果、経済活動のために急な開発が、自然や文化を破壊してきました。

都市による地方の破壊は資本主義の発展とともにどんどん進んでいきますが、その鍵を握るのが「社会的分業」です。人の間と書いて人間と読むように、人は一人では生きていけません。社会的な分業をして生活を営んでいます。貨幣経済が大きくなるとともに、もともと分けることができなかった土地と労働が分けられ、都市と農村での社会的分業が進むことになったのです。自然が壊される農村と、人間が壊される都市。お金のために、さまざまな問題が噴出してきました。

地域には、「住民の生活領域としての地域」と、「資本の活動領域としての地域」という地域の二重性があります。戦後の日本は短期的な利益を重視するあまり、後者を優先させてきました。その結果、たとえば本社のある都市が儲かり、工場がある地域はある程度の雇用と税金、酷い環境破壊が残る、ということがあちこちで起こっています。日本全体では経済発展につながっても、地域の経済は衰退し、自然は破壊される、という失敗が後を絶ちません。

いまこそ、自然と人の本来のつながりに根ざした地域経済をつくりなおすときではないでしょうか。そのためには、地域で回り続ける経済の流れを再構築する必要があります。グローバル経済に依存せず、地域の企業、行政、住人といった経済的主体によってまとまった投資が繰り返しなされる生産が持続していくしくみづくりが求められています。

アメリカでは、地域に進出する企業はその地域内から原材料を調達しないといけないという法律など、資本の無政府的な活動を社会的にコントロールするしくみもあるそうです。日本でも、国レベルでは難しいかもしれませんが、地域で条例化するなどは考えられそうです。

本書では地域が主体となった経済の成功例として、大山町の一村一品運動や、大阪のナニワ企業団地などの事例が挙げられています。資本が活動するための地域づくりではなく、地域の資源を活用した住民主体の内発的な地域づくりがあちこちではじまっています。枝廣先生とともにPOZIも地域づくりにかかわっている熊本県の水増集落などもそのひとつですね。

いま日本の経済の中心は東京をはじめとする大都市です。しかし、1万人未満の自治体が占める面積は、日本の半分以上を占めます。住民それぞれが地域のあり方を自分たちで決め、つくることで、日本の経済と社会もより持続的なかたちになっていくのではないでしょうか。

地域があって、国がある。その逆はありえません。大企業や大きな商業施設を誘致するだけではなく、地域の中で産業のエコロジーをつくっていく。自分もそのプレイヤーの一人であることを意識すると、何かできることが発見できるかもしれませんね。

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