今回の課題図書は、「孤独なボウリング―米国コミュニティの崩壊と再生」。アメリカの政治学者で、社会共通資本(ソーシャル・キャピタル)の研究者であるロバート・D. パットナムによる著書です。
読書会はまず「孤独なボウリング」という意味深なタイトルを紐解くところからはじまりました。本来は友人たちとボウリング場で楽しむものであったボウリングも、今ではオンラインで一人でも楽しめるゲームに。人との繋がりがどんどん薄くなる現代を哀れむ著者の思いがこもったタイトルの本書をもとに、社会の絆を見直すディスカッションを行いました。
本書で取り上げる社会的な資本には、「物的資本」「人的資本」そして「社会関係資本」の3つがあり、いまいちばん失われつつあるのが「社会関係資本」です。社会関係資本とは、コミュニティにおける人と人との繋がりと、それによって生じる互酬性と信頼を指します。互酬性とは、例えばお隣さんに野菜をおすそわけしたら、後日余ったおかずを頂いたなど、人と人との間の贈与関係や相互扶助関係のこと。互酬性と信頼は私たち人間が生きていく上で大切にすべき要素のはずですが、現代ではそれが失われつつあります。
社会関係資本には「結束型」と「橋渡し型」の2つの分類が存在します。「結束型」は、メンバーが限定され、特定の互酬性が安定している反面、排他的に見える傾向があります。例えばアフリカなどの先住民族のグループは、よそ者を受け入れることなく独自の文化を保っています。一方、「橋渡し型」は、コミュティ内の繋がりがそこまで強固ではなく、外部との連携や情報の伝播がしやすい傾向がみられます。例えば小学校での登校班は不審者の情報を共有したり、災害時はより大きな集団で動いたりと周辺の組織とも連携を取っています。
枝廣先生は、この2つの類型のバランスの重要性を、徳島県の神山町を例に説明されました。神山町は、ITベンチャーの誘致を積極的に行い、地域活性化を目指す神山町のように、集団内の繋がりを保ちつつ、外からの流入といった変化にも寛容。そうしたあり方が、地域の再生につながっているというのです。
アメリカで行われた人との繋がりにまつわる調査によると、1960年代以降、多くの人が選挙や自治体の活動などのコミュニティ組織に自分の時間を割くのを避けていることが明らかになりました。これは政治や教育に限ったことではなく、近隣住民とBBQをしたり、職場の上司と飲みに行ったりといったインフォーマルな繋がりも同様の結果に。これは、ネットの出現によって自分の好きなことにお金や時間をかけられるようになったこと、異なる世代がそれぞれ異なる趣味や習慣を持つようになったことが大きな原因と言えるのではないでしょうか。
ところで、日本でもかつて社会関係資本についての調査が行われたことがあります。それによると、コミュニティのソーシャルキャピタル指数が高いほど、刑法犯認知件数が低かったり、合計特殊出生率が高かったりと、市民活動や人間関係に良い影響を与えることが示されたそうです。社会関係資本がもたらす信頼や互酬性がそのコミュニティの凝集性や連帯を強めることで、より良い社会を作れるのかもしれません。
人との繋がりは個人にとってはもちろん、社会全体にとっても有益なものになるはずです。失われつつある「繋がり」を取り戻す為にも、一人ひとりが人との繋がりを重視したライフスタイルに変えていかなくてはなりませんね。
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