今回の読書会の課題図書は「サーキュラー・エコノミー デジタル時代の成長戦略」。表紙には大きい文字で「Waste to Wealth」と書かれています。直訳すると「無駄を富に」。いったい、どういうことなのでしょうか。筆者はズバリ、サーキュラー・エコノミーは、「環境に影響を与えずに世界経済の成長と人類の発展を可能にする唯一のソリューション」と述べています。そう、環境面だけではなく経済の面からも、エネルギーや資源に依存した従来型の社会を一新する概念として、コンサルティング会社のアクセンチュアなども提唱しはじめているのです。
2000年以降、石油や石炭などの価格が高騰しており、今後資源に頼ったビジネスは長続きしないことが予測されます。こうした資源に依らないシステムづくりはビジネスの面でも不可避な課題になってくるのですね。コンサルティング会社という経済の主流を引っ張る業種が、持続可能性と密接に関係する概念を持ち出しているところに、時代の大きな変化を感じます。
これまでの大量生産・大量消費型の経済は、たくさんの資源を使って製品を作って販売し、いらなくなったら捨てるという一方通行。一方のサーキュラー・エコノミーは、需要と供給をつなぐデジタル技術を活用し、「資源を取って作って、使って、直して、使い続ける」、循環型の経済モデルへのシフトを目指します。AirbnbやUberのようなサービスをイメージしていただければわかりやすいかと思います。もちろん、従来のリサイクルのような資源の再生・再利用も、サーキュラー・エコノミーの一つです。革新的なのは、物だけではなく時間や空間を資源としてとらえ、無駄を利益にしようという発想。駐車場に停められている自動車や人がいない部屋など、使えるのに使われていないものを、それを欲している企業や人に、新たなかたちで結びつけることで、富が生まれるのです。モノの「所有」を迫る従来のビジネスではなく、サービスとして提供、「利用」に対して課金する新たなビジネスモデルが、どんどん生まれる可能性があるのです。
こうしたサーキュラー・エコノミーが注目される背景には大きく2つの要因があります。1つは、資源の枯渇。今当たり前のように私たちが利用している資源の多くが、2050年には不足すると言われています。
もう1つは、若い世代の消費に対する思考が変わりつつあること。若い世代の多くはメルカリなどの流行に見られるように、所有よりも使用に価値を見出すようになっています。今後はこうした層が消費の中心を担っていくと考えると、企業が従来のビジネスモデルだけで生き残っていくことは大変。そこで、使用価値に目をつけた新たなビジネスのかたちをもたらすサーキュラー・エコノミーが注目されるのです。
デジタル技術が進歩している今、ビジネスや暮らしをサーキュラー・エコノミーの視点で見直してみると、実に多くの「ムダ」があります。「富」に変えられる「無駄」は、以下の4つの種類にまとめられます。
- 資源の無駄:使用したら永久に消滅してしまう素材やエネルギーなど。
- 製品のライフサイクル価値の無駄:まだ利用できるにもかかわらず廃棄される製品。
- キャパシティの無駄:未使用のまま放置される製品性能。
- 潜在価値の無駄:廃棄製品から回収・再利用されない部品やエネルギーなど。
みなさんも心当たりがあるのではないでしょうか。これらの無駄をどうしたら富に変えられるかを考えることが、これからのビジネスのヒントになるのですね。
「無駄」を「富」に変えるビジネスモデルは、以下の5つにまとめられます。
- サーキュラー型のサプライチェーン:供給量が少ない原材料や調達リスクが高い素材に替えて繰り返し再生し続けたり、100%再生可能な原材料や生物分解性のある原材料を導入したりする。
- 回収とリサイクル:従来は廃棄物とされていたあらゆるモノを他の用途に活用する生産・消費システムを構築する。
- 製品寿命の延長:壊れたり、時代遅れになったり、不要になったりして廃棄される製品を回収し、修理やアップグレード、再製造、再販することで製品寿命を延長する。
- シェアリング・プラットフォーム:新たなテクノロジーを積極的に活用し、使用されていない製品などの貸し借り、共有、交換を促進する。
- サービスとしての製品:メーカーや小売企業が製品を所有し、消費者やユーザーは、モノを必要な時にだけ借りて使い、利用した分だけのサービス料金を支払う。
この他にも、これから新しいビジネスモデルがどんどん出てくるかもしれませんね。
海外ではすでにサーキュラー・エコノミーを国家施策に取り組む動きも出ています。EUでは環境に害のある補助金を廃止したり、企業間での資源効率性を改善する施策を進めていたり、中国では資源のリサイクルに加えて、再利用や製品サービスシステムも支援する法律を設けるなど先進的な動きを見せています。
世界規模で作って売って終わりの一方通行のビジネスから、循環型のビジネスへの転換の動きが進めば、
業種・業界を超え、多様なネットワークを構築することで、これまで想像もしていかなったようなビジネスが生み出される可能性も広がります。規制が多い日本は変革に乗り遅れ気味のムードがありますが、経済のためにも、環境のためにも、いちはやくサーキュラー・エコノミーへのシフトを進めたいですね。
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