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古代からの「しあわせ」論を、最先端の知見を元に検証してみると…。『しあわせ仮説』読書会レポート

古代からの「しあわせ」論を、最先端の知見を元に検証してみると…。『しあわせ仮説』読書会レポート

2018年1月は、ジョナサン・ハント著『しあわせ仮説』を課題図書とした読書会でした。

幸せについてはこれまで、哲学者や詩人による「幸福論」的なものや、研究に基づいた「幸福学」的なもの、「しあわせになれる方法」などを記した大衆的なハウツー本までさまざまなアプローチがありました。今回取り上げる「しあわせ仮説」が面白いのは、最先端の研究をもとに、古くからの知恵を検証しているところにあります。

第一章で書かれているのは、考える前提として認識しておきたい「分裂した自己」について。自分というのは例えるならば、「象の背中に乗っている象像使いである」とのこと。これはどういうことかと言うと、意識的にコントールできる自分はほんの一部で、本当は象、つまり意識的に制御されていない内なる自分がいるということです。象と象使いは、いつもうまく協働するとは限りませんよね。たとえば新年に立てた目標を守れなかったり、内臓の動きを意識的に制御できなかったりするのも、この象と象使いの関係を表しています。好き嫌いも実は無意識的な直感で、それを象使いとしての自分があとから理屈をつけているに過ぎないということでした。

第二章は、心を変化させる方法について。本書では具体的に3つの方法が紹介されています。まずは、瞑想。自動的にわきあがってくる考えを手放すための手段です。第1章で言う「象」が何を言ってきても手放すための訓練ですね。そして次に、認知療法。自分の考えを書き留め、それに代わる方法を考える、という精神医学の治療法のひとつです。自分の思考を追う、ということですね。最後には、プロザックという薬も紹介されています。

第三章以降では、自分でコントロール出来ない自己=象の特性から、なぜわたしたちは分かり合えないのかということころまで考察を深めていきました。人間は他者の過ちはすぐ気づくけれども、自分の過ちには気づきにくく、しかも自分が間違ったことをしているとは考えていない。実に耳の痛くなる話ですが、人間は自分が正しいと思っていることの証拠だけを探し、それが見つかると思考停止してしまう性質だそうです。

その性質を最近加速させているのが、グーグルなどの検索機能。検索するワードを選んだ時点ですでにバイアスがかかっているのに「検索結果=事実」だと認識してしまうので、どんどんバイアスが強くなっていくのです。検索という日常的な行為の繰り返しで、ますます考えがひとりよがりになり、違う意見を取り入れにくくなるというお話には、ちょっとドキッとさせられました。

他人に対しては、「行動」を通して実に冷静で的確な評価を下しているのに、自分のこととなると、「自分の内面は、本当はどのようなものなのか」という情報も含めてで判断してしまう。たやすく自分の利己的な行為について釈明し、他者より優れているという幻想に固執しがちなのは、こういうプロセスがあるからなのですね。私たちは皆、世界を直接あるがままに見ていて、他のすべての人たちにも同じように見えていると考えがちです。これは、「素朴実在論」と呼ばれますが、この考えが進むと、「こう見えていないあなたはおかしい」という認識になってしまいます。素朴実在論が個人レベルから、集団、国家レベルへ拡大することが、世界平和や社会調和への最大の障害だと本書では述べられています。

そして最後に「幸福の追求」についてのさまざまな学術的見解が紹介されています。仏教の基本理念では「幸福は、外界の物事に対する執着を捨てること。しあわせは心の内側にのみある。」とされていますが、近年の心理学における研究結果からは、このような物事の捉え方は偏り過ぎているという結論が出されています。探し方さえ間違わなければ、幸福は外側からも訪れるのです。

外的な要素として、本書では「生活条件」と「自発的活動」の二つが挙げられています。前者は財産や住んでいる場所、配偶者の有無、人種、性別、年齢などの条件。後者は、瞑想やエクササイズ、新たなスキルの獲得、休暇など、自ら進んで選択する活動です。人間は条件に慣れてしまいがちなので、幸福度を上げるためには、後者の「自発的活動」、つまり自ら意識して選択する活動を続けることがポイントのようです。

枝廣先生はここで、幸福学の大家、セグリマンによる「フロー」についても話されました。フローとは、何かに没頭できる状態のこと。自分の強みを知り、それを生かす活動を1日1回でも行うことが幸福度をあげることだと考察しています。

そして、誤った幸福の追求についても紹介されました。コーネル大学の経済学者、ロバート・フランクは、消費を「誇示的消費」と「非誇示的消費」に分類。誇示的消費は年収や贅沢品など、他者からも見えるもので、人と比べることで相対的に成功を指し示すもの。対する非誇示的消費は、それ自体に価値がありステータスを達成するために消費されないものとし、休暇などが例として挙げられます。幸福度を上げるためには、後者の非誇示的消費に費やすことがポイント。その第一歩として、勤務時間を減らして、家族との時間や休暇などの活動をもっと消費すべきであるフランクは述べています。

日本でも働き方改革が叫ばれる昨今、本当の幸せとは何なのかを考える、いいきっかけになる一冊と出会えた読書会になりました。

幸せ研の読書会は、「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について考え、対話する読書会です。課題図書を読んでいない人でも参加でき、誰にでも発見のあるイベントとして運営しています。ぜひお気軽にご参加ください。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページから!

(POZIプランナー 伊藤恵)