ホーム幸せ経済社会研究所何がアメリカを経済大国にしたのか。何がアメリカ経済を壊したのか。そして、あるべき経済のかたちとは。「アメリカ経済政策入門」読書会レポート

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何がアメリカを経済大国にしたのか。何がアメリカ経済を壊したのか。そして、あるべき経済のかたちとは。「アメリカ経済政策入門」読書会レポート

何がアメリカを経済大国にしたのか。何がアメリカ経済を壊したのか。そして、あるべき経済のかたちとは。「アメリカ経済政策入門」読書会レポート

2018年2月、第75回目の読書会では、ふたりの経済学者によって建国から近代のアメリカ経済を解説した『アメリカ経済政策入門ーー建国から現在まで』が課題書となりました。

枝廣先生はこの本を「とてもわかりやすく書かれた、たったひとつのキーメッセージ」を伝える本だと感じたそうです。それは一体どんなメッセージなのか、参加者たちのワークも取り入れながら進んだ勉強会の様子をご紹介しましょう。

本書の原題は 「具体的な経済」(Concrete Economics)、副題は 「ハミルトンによる経済政策と経済成長」 とされている通り、アメリカの初代財務長官だったアレキサンダー・ハミルトンによる経済設計を軸にして解説された本です。初代ワシントン大統領らともに”アメリカ建国 7人の父”のひとりとされるハミルトンの経済設計は、とても明解な組み立てがされていました。

それは、現状の課題を整理し、課題解決の先にある「あるべき姿」を設定して、その姿の実現に向けてすべきことを宣言する、というもの。“ゴールを設定して予定を組む”、とは実にシンプルとも思えますが、国という大きな主語の場合も同じことが大事にされていたのですね。

明確で具体的な目標に向けて、国が進む方向性を宣言すると、ある種の”経済スペース”が生まれ、そこに起業家や投資家たちのお金というエネルギーが注がれていく。もちろん時代の流れとともに社会の状況は移り変わりますが、アメリカという国はことあるごとにハミルトンの設計を再設計してきました。決して偶然的に発展したのではなく、明確なビジョンを持った政治家たちによって、意図的に国の発展する方向が定められてきたのです。

しかし近年のアメリカ経済を徹底的に批判している著者たちは、現在の停滞の原因は、間違った再設計にあったことを指摘しています。最後にアメリカ経済が再設計された1980年代には「実利よりもイデオロギーが優先されてしまった」ためにどんどん低迷してしまった、というのです。

イデオロギー、つまり物事の「思想」はあくまで抽象的なものなので、経済政策を設計する時は具体的で実際的な「あるべき姿」を描くことが非常に重要である、と言い切る筆者たち。
ハミルトンの経済設計以来、歴代の大統領たちはこの「あるべき姿」を常に「実利」(pragmatic)を優先し、イデオロギーは後回しにして再設計したからこそ、アメリカを大国にまで押し上げることができたのですね

著者の二人は近年のアメリカ政府の現状を「イデオロギーどころか、ほとんど宗教的」と酷評したうえで「具体的で且つイメージ可能な再設計」を強く提案しています。

勉強会ご参加者たちはグループに分かれ、過去の3名の元大統領や当時の政府の立場となり、
・当時の状況、
・その先に描いたあるべき姿、そして
・実際に行ったこと
を整理し発表しあいました。

例えばアメリカ建国時代、ハミルトンたちは農業国から経済国家を目指し、大規模な工業化をビジョンとして描きました。高い関税によって得た収益でどんどん工業化を進めることに成功。鉄道ができたことで物流も発展し、通信販売や精肉産業の企業も大きくなりました。
まさに、政府が用意した経済スペースに企業がうまく躍り出たといえる実例です。

時は流れ第34代アイゼンハワー大統領。冷戦時代も重なったことで、テクノロジーによる技術革新を宣言します。
途上国が発展する手順と同様に、資金や熟練度を要さない靴下や玩具といった小規模なものづくりから、重工系、つまりバリューチェーンの上部を目指すように製鉄、車、造船、エネルギーとどんどん進んだ時代。軍事的需要からコンピュータやインターネット、電子レンジといった一般家庭の家電にも大きな変化がもたらされたことはご存知の方も多いでしょう。

「こう考えてみると、政府って、やりがいのある仕事ですよね(笑)」
と思わず枝廣さんが言葉にされたように、政府は自国の実利のためにどういう分野の産業が必要か、将来はどうなっていくかを検討し、目的を持って特定産業の推進を行っていることがわかります。
産業ごとの盛衰は、自由市場のダイナミクスではなく、実は随分と国に依存してきたとも言えそうです。

しかし、いつの間にか選択を誤り、一部のトップ層の間だけで利益が分配され、国の利益を生み出さない政府になってしまった現在のアメリカ。
本書ではアメリカ経済のアップダウンと共に、日本、韓国、中国といった東アジア諸国の経済設計についても触れています。かつて日本経済が大発展した時代もやはり、ハミルトンの設計を元に日本政府が経済政策を作ったのでした。

では、現在の日本を考えたとき、この先どんな「あるべき姿」を目指すのがいいのでしょうか?勉強会の最後には、わが日本経済の再設計を考えた、意見交換の時間になりました。

「現在の日本では、輸出で外貨を稼ぐことが良しとされていますが、そうしないとこの国の経済は本当に回らなくなるか。疑問ですよね」枝廣さんが的確にまとめてくれます。「貿易はとても大切なのでいい形で続けることも必要ですが、もっと島国であることを活かして、食べ物もエネルギーも国内で回せるような経済を考えられないものでしょうか」

確かに、もしも何らかの理由によって他国との交流が途絶えても、農業や漁業といった第一産業が強ければ自活できるポテンシャルがこの国にはあります。逆に、食料とエネルギーが国内で十分に賄えるならば、他国と争いごとになる原因すらなくなるでしょう。

これは一例だとしても、国民に精神的な充足までももたらすような未来のビジョンを、日本の政府が設計してくれる日はくるのでしょうか。するわたしたち個人も同様に、あるべき姿を描く視点が求められているのかもしれません。

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