109回目の読書会では、ハーバードビジネススクール教授の経済学者、レベッカ・ヘンダーソン氏による『資本主義を再構築する』が課題書となりました。有史以来、最も”成功した”と思われる経済システムの資本主義が、近年直面している危機から脱するために、企業や私たちにできることがある、と言い切る筆者。果たして何をどうしたらいいのか。本書の内容を紐解きながら、ディスカッションを交えた読書会の内容をご紹介します。
原題に「Reimagining Capitalism in a World on Fire(燃え上がる世界の資本主義を改めて想像する)」とある本書。105回目の課題書と同じく「燃え上がる」とは、つまり気候危機のことを意味しています。著者はまず、「企業が環境保護など正しいことをしながら経済成長を続けることはできるのか?」と問いかけていました。
20余年に渡り環境と経済の関係性を追っている枝廣淳子さんは、環境問題と企業の立ち位置に関して、ある変化を感じているそうです。それは「経済的成長か環境活動か」といった二者選択だった時代から、グリーン経済など「経済も環境も」という考えが出てきた時代、そして今は、ESG投資を初めとした経済界の提案で「環境があるから経済がついてくる」という考え方へのシフトのことでした。確かに今の時代、就職先や日常の買い物でも、その企業が環境に対してどんな考えをもっているかを検討する人も珍しくありません。
著者は、企業が存在意義を明確にし、社会における役割を果たして、政府との関係性を正しく保つことで、収益を確保しながら公正で持続可能な資本主義を構築することはできる、と断言し、8章に渡って理由や事例を紹介しています。
ここで皆さんは、「もしも現在の資本主義がいくつもの問題を解決して理想的に再構築できたら、どんな社会なのだろうか?」というディスカッションを挟みました。皆さんこの読書会で学ぶメンバーだけあって、未来に向けたキーワードが頻出。枝廣さんも「著者に聞かせてあげたい内容」と言うほど熱い議論を経て、本書の内容紹介に入りました。
著者は、市場における問題として、外部性が適切に反映されていないことを指摘します。例えば、製造のために掛かったCO2排出量が商品価格に反映されていないことや、子どもたちに夢を届けるエンターテイメント企業が社会よりも株主の利益を優先していることなどを挙げながら、再構築に向けたイノベーションのひとつとして「共有価値」を提案します。
近年日本でも、「パーパスドリブン」や「パーパスべース」といった言葉が聞かれるようになりましたが、企業の活動する目的を関係者全員が把握することで、みんなが同じ方向を向きやすくなり、誤った判断を避けることができるという組織論です。理念とは似て非なるもので、企業理念よりもさらに社会に向いた姿勢のこと。そこで働く目的を明確にすることで、株主のためではなく、果たすべき社会的役割が明確にできると明言していました。
同時に、そうした企業が横のつながりを強めて、さらに社会の基盤でもある政治を支える存在になれることを企業に求めていました。これは決して、自分たちの利益のためになる政治を支えることではなく、企業がパーパスを果たせる社会の基礎を求めて、本来の民主主義を自分たちで作るという、いわば社会人の矜持です。そんなこと出来っこないと嘲笑するか、あるいは、企業人の尊厳を掛けて変化のために立ち上がるのか。著者は自らが協働する様々な企業や団体、行政などの実例とデータを挙げて、変化を信じる理由を説いています。
最後の章では、企業を構成する個人にもできることや、理想的なステップがまとめられていました。その中で勉強会で解説されたのは、個人も自身のパーパスを見つけて、仕事や活動にその価値観を持ち込むということでした。例えば、生産と消費が同一であるプロシューマーであること、暮らしの一部でも自給的に暮らすこと、もしくは、企業に所属しながらも社内起業家としてサプライチェーンを見直すことなど、自らにできることを見つけて今から始めてみることです。
「暮らし方の組み合わせが増えた今、生き方は自分でデザインできるともっと多くの人に知ってもらいたい」と枝廣さんが言うように、従来の働き方で買い物を続ける以外にもできることがあります。また、これは研究などでも明らかになっていますが、社会的な生きものであるわたしたち個人の行動には、周囲を変える影響力が必ず備わっているものです。あなたが生きるパーパスを言葉にしてみて、そして行動の一歩目を歩み出しましょう。
幸せ研の読書会は「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について知り、考え、意見しあう場です。2020年4月以降はオンライン開催となりましたので、遠方在住の方も参加可能となりました。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページからご覧ください。
(やなぎさわまどか)