ホーム幸せ経済社会研究所近現代型の幸せモデルの「終わりのはじまり」。その次に来るものは…。 「新・幸福論」読書会レポート

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近現代型の幸せモデルの「終わりのはじまり」。その次に来るものは…。 「新・幸福論」読書会レポート

近現代型の幸せモデルの「終わりのはじまり」。その次に来るものは…。 「新・幸福論」読書会レポート

2018年3月に開催された読書会の課題図書は、内山節著『新・幸福論』。筆者は、いま日本では国家や社会、経済の目標が求心力を失いつつあると述べています。目標を立ててそれに向かって前進していくモデル自体がもはや発展途上型で、限界をむかえていると言うのです。本書では近現代、日本でいうと明治維新以降からはじまったひとつの大きな時代が壁にぶつかり、多くの人が限界を感じはじめた今日までと、今まさに起きつつある新しい胎動についての考察をしています。

実際は行き詰まりの中にいるのに、社会がなかなか変わらないのはどうしてなのでしょうか。まず前提として、わたしたちはイメージの中の世界を生きていると作者は述べています。つまり「日本は○○だ」「会社は○○だ」という定義は人それぞれのイメージに過ぎないのにも関わらず、私たちはイメージを真実だと思って生きているということです。

個人が持つイメージとその時代の政治や経済などがつくりだすイメージが一体化するとき、そのイメージは「社会化」し、真実であるかのごとく、人々を支配するようになるのです。

戦後の高度経済成長は、このようなイメージの社会化により成し遂げられていったという考察がなされています。三種の神器といわれた白黒テレビ、冷蔵庫、洗濯機にはじまり、海外旅行やマイホーム。幸せのイメージは経済的豊かさによって実現可能なものになり、人々は経済成長=幸せというイメージをより確固たるものにしていきました。

しかし、ときとしてこのイメージが転換することがあります。特に日本人は自己の利益を最優先させ、この変化が速くなる傾向があります。それが顕著だったのが戦後でした。戦時中は「お国のために」と叫んでいた人々は、戦後一夜にして民主主義者に。1945年の9月に出版された『日米会話手帳』という書籍が、360万部も売れる超ベストセラーになったのです。これは、国の利益=自分の利益という戦時中のイメージから、英語を身につけることが自分の利益になるというイメージに転換されたから。そして、このとき抱いた「軍部にだまされた」という感情が、国家や公のために生きるのは損だというイメージを生み出し、ひいては今日の政治不信につながっているとも述べられています。

人々を支配する「イメージ」と同時に、もうひとつ大切な概念が「人々の誕生」です。近代以前、人は結びつきがある共同体の中で暮らしてきましたが、人を数量でとらえ、国が管理するようになって「人々」という概念が誕生しました。近代国家では国民、労働者、資本家、消費者といったさまざまな「人々」が生まれ、個人は交換可能な数値として社会に認識されるようになったのです。しかし、自分は唯一無二のこの世にたったひとりしかいない貴重な人間であるという自己認識は依然として根底にあり、この自己認識された自分と、社会的自己の断絶が根源的な不調和の原因になっていると作者は考察しています。

日本では戦後、根源的に個人と社会は虚無的な関係でありながら、高度経済成長の熱狂が次々と人々が思い描く幸せを実現することで、その関係を覆い隠してきました。しかし経済成長が踊り場を迎え、また個人と社会の虚無的な関係が姿を見せ始めています。作者はそんな今を「亀裂の時代」と呼びます。若い世代を中心に自分と国家、社会、経済との間に虚無感を感じる人が増えている一方で、近現代の成功にしがみにつき、再び成功物語をつくりだそうという動きも強くなってきているとのことでした。しかし作者は、もはや近現代の構造は成り立たなくなっている時代にさしかかっており、脱近現代を模索する動きも出てきている「終わりのはじまり」だと論じています。

最後に、「人々」として生きることの虚無感から生まれた新しい動きについても紹介されています。「人々」の中に取り込まれないように対抗する試みは、1960年代からはじまっていました。しかし、このときは「資本家」に対する「労働者」、「闘う市民」などのように、人々の群れに対抗する新たな「人々」をつくるという動きでした。それに対し今起こっているのは、確かな関係性の網が広がる地域・共同体のコミュニティをつくる動き。経済の考え方もソーシャル・ビジネスやコミュニティビジネスなど、新しい経済が台頭してきています。

私たちの社会は近現代の幻想からようやく解き放たれはじめ、個人を自由にする結びつきを求める新しい胎動が世界各地ではじまっています。その動きに対し、既存のイメージの中で生きる人たちがストップをかけようとしているのが、今の世界なのだそうです。

枝廣先生は、経済成長を追い求める経済からともに生きる経済への転換期に差しかかっていると述べられ、その例として島根県の海士町で起きていることを話されました。

今回の読書会では、投票率の低さなど、昨今のさまざまなニュースでも感じる虚無感や社会の閉塞感など、日本人の誰しもが心の底に持っているモヤモヤとした気持ちの原因の一端を知ることができた気がしました。

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