ホーム幸せ経済社会研究所宗教というより、生き方指南として。仏教から「幸せ」を学ぼう。『ブッダの幸福論』読書会レポート

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宗教というより、生き方指南として。仏教から「幸せ」を学ぼう。『ブッダの幸福論』読書会レポート

2018年4月に行った第77回目の読書会は、「幸せ」に重きをおいたテーマで開催。課題書はアルボムッレ ・スマナサーラ著『ブッタの幸福論』です。

そもそもこの読書会は、幸せと経済のバランスが良い社会について考えを深めることが主軸になっていますが、改めて「幸せってなんだろう?」と問う枝廣さん。そして「幸せを問うアプローチは2つある」と言います。

まずは、幸福を定義すること。そしてもうひとつは、ケイパビリティの平等性。ケイパビリティというのは、「できることの可能性」というような意味です。少し聞きなれない言葉かもしれませんが、人それぞれの望みは違っても、望む幸せに至る道は平等であるべき、という考え方です。平等に幸せ向かうために何が必要かを説いたのが今回の課題書でした。この本には、ブッダが定義する幸せが書かれているのではなく、幸せになるためにブッダが定義した、ひとのあるべき姿が記されています。

読書会では今回も少人数でのディスカッションを繰り返しました。まずは実際に本を見ながら、ふたり組になって「五戒」について話し合います。五戒とは、仏教の中で禁じられた5つの基本的な決まりごとを意味しています。生き物を殺さず、盗みをせず、不道徳な性行為や嘘をつくこと、そして、”飲むと頭が悪くなる”という飲酒を禁じています。

自らも仏教や東洋思想の学びを深めているという枝廣さんは、五戒は自らを守るためのものだと解説しました。幸せの前提にあるのは、「正しく生きる」こと。そのためには自らの知恵や体を傷つける行為を禁じ、正しく生きた先にこそ幸せの境地がある、ということなんですね。

では「正しい」とは一体どういうことか。正しいとは、漢字のつくりを見ればわかると思うのですが、ある線のところで止まる、ということだそうです。例えば仏教では、自分の知恵を傷つけるべきではないので、飲むと頭が悪くなるかもしれない飲酒は、飲む量を問うのではなく最初から飲まない、という線を引いているんですね。

枝廣さんも実体験を踏まえて、こうした自分なりの”マイ戒律”を決めておくと自分を守ることができる、と教えてくれました。いくつかのマイ戒律があるそうですが、例えば、「深夜に感情的になってメールは朝まで送信しない」と決めているそうです。勢いよく言葉を綴ったら、相手に送る前に一晩寝かせること。それによりいらぬ問題から自分自身を守れる、ということですね。

次のグループワークでは、五戒とともに大切な要素として本書に書かれている「四無量心(しむりょうしん)」について話し合いました。四無量心とは、仏性における4つの心、「慈」「悲」「喜」「捨」を意味しており、それぞれ、相手を慈しむ心、相手の苦しみを取り除いてあげたい心、相手の喜びを祝う心、どの相手にも平静で落ち着いた心のことを指します。お釈迦様はこの四無量心を、「善人も悪人もどんな人にもそわなっている」とおっしゃったとか。この四無量心は、仏教の大切な要素である「慈悲」のポイントになるものです。

ここで枝廣さんは、初期仏教・上座仏教を学び、伝える活動をしている「テーラワーダ仏教教会」のウェブサイトを参照して、慈悲について深堀りされました。

慈悲という考えのベースには、自分が誰かの命のおかげで生きているという気づきがあります。自分の幸せを願う時こそ、自分のために他人の幸福を祈ることがとても重要だとされているのです。自分自身はとても大切にすべきものだけど、自分の命は他のたくさんの命のおかげで「生かされている」存在です。そのため、「私が」という気持ちを強めた途端、私と私以外を隔てることになってしまいます。たとえどうしようもないほど苦手な相手、もしくは自分をひどく嫌っているであろう相手に対しても、憎悪を育てずに彼らを慈しむ心をもつこととが、自らの心の平安につながるのです。

「苦手な人の幸せも願える境地にいけたら、ある意味もう最強だよね」と枝廣さんが言う通り、競争原理を超越した精神性は、次なる未来の経済システムに向けた境地かもしれません。

それを示すかのように「仏教とは宗教にあらず、仏教とは合理的な生き方の指南書である」という見方をする研究者もいるそうです。それでは合理的に、幸せの境地に行くには具体的にどうしたらいいのでしょうか?

仏教には「全ての行動は心に基づく」という原則があります。どんな相手をも慈しむためには、慈しみの心を持つ、ということです。そのためにまずは自分自身を慈しみ、自分を無くさずにいること。次に、自分と親しい命、同性の友人や兄弟、そして最終的には(憎い相手も含めた)生きとし生きるもの全ての幸福を願うこと。

そうした心の習慣をつくるのに役立つのが、「慈悲の瞑想」です。改まって時間や場所を取るよりも、電車移動中や入浴中など、一日の中で数回、心の中で自分と他の命の幸せを願う行為を続ける。これがやがて慈しみの行動につながるトレーニングなんですね。

この日の勉強会では最後に、慈悲の瞑想を練習してみました。実は本のなかに「2〜3週間続けると慈悲が身につく」と書かれていて、枝廣さんも実際、10日間ほど実践してみたそうです。続けるうちに抵抗がなくなる実感があったそうで、瞑想にご興味ある方はぜひ本書の内容を実践してみてください。

幸せ研の読書会は、「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について考え、対話する読書会です。直前にふと時間ができた、ということもあると思いますので、課題図書を持ってない・読んでいない人でも参加可能です。ぜひお気軽にご参加ください。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページから!

(やなぎさわまどか)