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格差はほんとうに自己責任なのか?漠然とした不安を乗り越えるために今できることは。『底辺への競争』読書会レポート

2018年 6月、第79回目となった読書会は、『底辺への競争 格差放置社会ニッポンの末路』 (著:山田 昌弘)が課題書でした。

著者はかつて、「パラサイト・シングル」「格差社会」「婚活」といった社会的にインパクトの強い言葉を創り出した、コピーライティングのセンスも感じさせる山田 昌弘先生。山田先生は、「家族社会学」を専門とする研究者です。

本書のタイトルにある”底辺への競争”とは、文字通り、上から下に向かっていく流れのことです。本来なら競争というものは上へと向かうためものですよね。ところが今は競争の果てに、どんどん労働条件や生活水準が下降していく人が増えています。それは、国同士が競い、様々な規制を緩和してグローバリゼーションや自由貿易を推し進めたひとつの結果。

この現象はアメリカやイギリス、そして日本でも社会問題となっています。特にバブル崩壊後から「失われた20年」という経済状況にある日本では、一度も右肩上がりだった時代を知らない若者たちの「漠とした将来への不安」が増大していると本書では指摘しています。日本の場合、それまでは「一億総中流」だった多くの人たちが下降せざるをえないことも独特な問題。筆者はそんな日本を「先進国の中で初めて大量に下降した国になる」と悲観的に警笛を鳴らしています。

枝廣さんは、海外と比べて「標準コースから外れたらもう二度と戻れない」のが日本の特徴だと言います。“正規採用され安定した職があるお父さん、家庭を守るお母さん、持ち家に住み、大学へ進学して安定した就職をする子ども”、といったステレオタイプな標準コースを進む人には社会的サポートがあるものの、何らかの原因で一旦コース外を進む場合は、個人的なリスクを取らないといけない国。しかし、本当にそれは、個人だけの責任なのでしょうか。

本書では、かつて「パラサイトシングル」と呼ばれた、いまの「アラフォー世代」をひとつのモデルケースとして時代の変化を説明しています。あえて就職しない、もしくは、あえて結婚しないで親元に残って暮らし、自分の収入はすべて自由な消費にあてるという傾向が強かった11970年代生まれの人びとですね。

好きに消費し続けるという意味でも、かつては豊かな生き方として捉えられていたパラサイトシングル。20年の時を経た現在、彼らは就職したくてもできない、結婚したくてもできない、という側面が強まっています。自活できる経済力がないために親元に暮らす「中年パラサイトシングル」となった人も多く、本書では該当世代の15%、約300万人もの人がその状態にあると言っています。

この世代はいつの間にか生活水準の低下は顕在化しているという人も多く、将来に対する不安ばかりが募りがち。せめて今よりも下降しないためにと、将来リスクとなるようなもの、例えば持ち家を買う、結婚、出産するといったある意味での幸せを諦める、という傾向が見られるそうです。

このままだと、現在のアラフォー世代が高齢者となる2040年以降は、経済格差と分断がさらに進み、果ては過去の遺物であったはずの階級社会になってしまうのではないか、と大変に悲観的な観測を示唆していました。

こうした見方に対し、「下降するのは自己責任、努力不足」という風潮もありますが、本書では、「こんなにもたくさんの人が下降しているからには社会に責任がある」と断言しています。

また、不安のなかで下降せざるおえない人の一方で、少しずつ新しい生き方を実践する人も。起業する、フリーランスになる、シェアハウスに住む、地方に出る、またはシングルでの育児やLGBTQといったマイノリティへの理解を求めるなど、「先進的な生き方や価値観」も少しずつ見られるようになりました。そこで求められるのは、こうした(標準コースとは異なる)選択をした人たちも、セーフティーネットとして支えてくれる社会制度だ、と本書でも繰り返し語られています。

本勉強会では、参加者同士の議論をところどころに挟みますが、最後に「では、どうしたらいいか?」というテーマで各グループが話し合いました。

・生きる価値観を変えること
・地域や他者と助け合えること
・ひとつの経済に頼らない生活力をつけること
・自ら食べ物をつくること、
といった様々な意見が挙がり、一つひとつにうなずきながら枝廣さんも地方の事例を紹介してくれました。

国内でも早くから地域問題に対面して、地道に取り組んできた島根県は、半農半Xを推奨したり、シングルマザーを地域に呼び入れたりするなど、具体的で実践的な事例が話題になりました。小さい規模であれば、意思統一もしやすくなるもの。政府の動きにただ悲観的になるのではなく、自分たちでできることや変えられることから取り組む行動こそ、後に続く世代に贈るものとなりえるのではないでしょうか。

また今回の読書会では特別に、仏教を研究し、自らも浄土宗の僧侶をされている大谷さんから30分ほどの講話の時間がありました。利己的にならず、身近な人たちといい関係性を築く人生こそ、社会や環境、そして経済にも、もちろん自らにも幸せをもたらす。そんな大きな精神性を学ぶ会となりました。

幸せ研の読書会は、「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について考え、対話する読書会です。仮に課題図書を持ってない・読んでいない人でも参加可能。ぜひお気軽にご参加ください。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページから!

(やなぎさわまどか)