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禁止や命令はナシ!人をより良い行動へと“導く”、「ナッジ」とは?「実践!行動経済学」読書会レポート

禁止や命令はナシ!人をより良い行動へと“導く”、「ナッジ」とは?「実践!行動経済学」読書会レポート

2018年8月の読書会は2回行われました。今回はその1回目、リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン共著『実践!行動経済学』を課題図書として取り上げました。「今日はこれを食べよう」といったことから、「電気を節約しよう」ということまで、人々はいろいろな「選択」を行っていますよね。普段、無意識に行っているような「選択」について、体系的に学び、より良い環境、ライフスタイルのつくりかたを探ります。

読書会は、「自分の問題意識の中で変えたい人の行動は何か」という問いかけから始まりました。ポイ捨てや食べ残しなど、日常的に気になる課題はたくさんありますよね。本書の原題は『Nudge(ナッジ)』。注意や合図のために人の横腹をひじでやさしく押したり、軽く突いたりして、「あっちだよ、あっち」と伝えるような動作を表す英語です。つまり、自由放任でもなく、押し付けでもないかたちで行動を促すのが、ナッジというわけです。

たとえば、学生たちにバランスがとれた食事を摂らせたいと考えていたアメリカのカフェテリアでの話。並べ方を変えたところ、フライドポテトではなくてサラダを手に取る学生が増えたのだそうです。このように、ナッジによって強制、命令ではなく人の行動を良い方向にもたらすことができるのです。

タイトルにもある「行動経済学」は、古典的な経済学とは人間観に違いがあります。いわゆる経済学の世界では、人はどんな影響も受けず、合理性のみで判断し、行動する、といった前提に基づき考えます。しかし、実際私たち人間は目の前の事実だけではなく、さまざまな文脈に影響を受けるものですよね。これまでの経済学よりもずっと人間らしい人間像を対象にしているのが、行動経済学なのです。

そこでまず頭に入れておきたいのは、人間の思考にはある種の傾向があるということ。私たち人間の思考には直感的思考、合理的思考の2つのタイプがあります。前者は受動的システムとも言うことができ、本能に近いもの。飛んできたボールを避けるといったことが当てはまります。一方後者は熟慮システムとも呼ばれ、じっくりと考えることに拠ります。ここでポイントになるのが、受動システムは無意識、熟慮システムは意識的にコントロールしているということ。私たちは日常的に慣れたものは受動システムでこなし、新しい課題は熟慮システムを用いて判断しているのです。

これまで触れてきたナッジは先ほどの受動システムに、より効果的に活用できます。例えば選挙の場面では、特に応援したい候補者がいなければ、最も有力な候補者になんとなく投票してしまうことはありませんか。こういった人の思考の傾向を捉えておくとナッジをうまく活かせるはず。そこで、まずは人の思考に影響をもたらす大きな2つのバイアスを学ぶことに。

1つ目は現状維持バイアス。惰性と言い換えることができるかもしれません。ランチのお店を選ぶときも、行きつけのお店を選ぶことが多いですよね。2つ目のバイアスは経験則。人間は経験に基づいて判断することが多いもの。行きつけのお店が一番美味しいと思い込んでいても、違うお店の方が自分好みで美味しかった、なんてことはありませんか。このように、たくさん経験してきた中でも、実は間違っていた、ということもあります。認知に誤ったバイアスがかかることで本当とは違うように捉えることがあるのです。さらにこの認知に関するバイアスには3種類が存在します。それぞれがどういったものか、詳しくみていきましょう。

まずは、「アンカリング」。
碇を下ろして判断するように、自分が知っているものを起点に考えること。例えば「特別価格10,000円」という値札をつけるよりも、「通常価格30,000円→特別価格10,000円」という比べる情報(=通常価格)をつけたほうが、購買に結びつきやすくなります。起点をどこに置くか、がナッジになると言えそうです。

次は「利用可能性」。
事例をどれだけ思いつくか、といった現実に起こっている可能性から判断すること。自分で思いつかないことはあまり起こらないと考えてしまうのです。例えばニュースで目にする機会も多い殺人による死者の方が自殺より多いように感じる、といったことはありませんか。どれだけ現実的に感じるか、で選択を誘うことができるのです。動かしたい方向に近いことを思い出させることもナッジのポイントですね。

最後は「代表性」。
特定のカテゴリーに典型的と思われる事項の確率を過大に評価しやすいということ。例えば、ピッチャーは痩せている人がほとんどで、キャッチャーは体格がごつい人がやっているというイメージはありませんか。そこで、野球チームに明らかに体格がいい人がいるとすると、その人を「あの人はキャッチャーだな」と考えてしまいます。

こうした3つの思考性によるバイアスを、ナッジをきかせて修復することが重要となります。

また、フレーミング、つまりどういう枠の中に伝えたいことを入れるか、といった伝え方も大切。同じ中身でもどうやって伝えるかで人の行動は変わるもの。

そこで意識したいのは、人間は社会的な生き物であり、他の人に簡単に影響されてしまう、いわゆる同調圧力の影響です。例えばアメリカで化学物質の汚染が5年間で40%の削減につながった例があります。そのために行ったのは規制でも罰金でもなく、化学物質の使用量の報告義務を設けただけ。報告義務が出てくると、その報告を元にNGOが排出量のランキングを作成するようになります。企業にネガティブな印象を避ける動きが生まれたことから、全体で4割なくなったのですね。この事例からは、情報を「見える化」することは、個人の意識、行動の変化につながることがわかります。

生活にまつわるすべての選択に人間の特性をうまく活用した「ナッジ」を用いることで、社会課題の解決に繋がるような「わかっているのに変えられない」日常の行動を、より社会に優しいライフスタイルに変えていくことができるかもしれませんね。

幸せ研の読書会は、「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな課題について考え、対話する読書会です。課題図書の解説はもちろん、ディスカッションなどをおこない主体的に考えていきますので、理解をより深められるチャンスにもなります。もちろん課題図書を読んでいない人でも大丈夫。ぜひお気軽にご参加ください。ご案内はこちらの幸せ経済研究所のホームページから!

(POZIインターン 関山千華)