第81回目となった読書会の課題書籍は『水がなくなる日』(産業編集センター)。今回は著者の水ジャーナリスト、橋本淳司さんがいらして、分かりやすいワークショップを挟みながら解説してくださいました。
同書は、たとえ今は水に関心がない人でも気にせずにはいられないような、水にまつわる事例を「トピックス」として提示。その数は60項目にも及び、たとえば「安全な水なく、感染症拡大」、「水道管が動脈硬化になっている」、「スマホに910リットル、Tシャツには2900リットル」といった、思わず「え、どういうこと?」と真相が知りたくなるタイトルがずらっと並んでいます。
橋本さんからは「水循環」という少し特殊な言葉について説明がありました。私たちの暮らしには「入ってくる水」と「出ていく水」があり、それは誰かの家も、自然界で上流から下流へ流れるのも同じ原理なはずですが、なぜか学校の授業などでは「循環」が身近なものとして取り上げられることはありませんでした。そこで、家の中に「入ってくる水」と「出ていく水」にはどんな水があるかをグループで話し合い、さらにそこから、各自が暮らすエリアの「流域」の水なのかどうかを考えてみました。すると、ただ一言で「水」と言っても、暮らしの中では身近な流域の水だけで暮らしているわけではないことがわかります。現代のライフスタイルでは多くの人が、複数の流域の水を使っているのです。
また、暮らしの中には「水の形をしていない水」がたくさんあることをご存知でしょうか。多くあることも分かりました。例えば「たくさんの水を飲んで育った家畜の精肉」であったり、「たくさんの水をつかって作られた衣服」など、現代の消費型ライフスタイルにはその背景に大量の水を抱えたものが多くあるのでした。
後半のワークショップでは、書籍にある60トピックスから各グループでひとつ、課題となるトピックを選出し、2030年にはその課題がどう解決されてると良いかを話し合いました。ご存知の方もいるかもしれませんが、2030年はSDGsの達成年。水問題が解決した姿を一旦仮定し、ではその5年前、さらに10年前には何をするべきかを考えるワークです。
その行動を支えるために、自治体や企業が何を選択するのか、そして今、私たち自身が何を選ぶべきか。それらが明確になったところで、橋本さんからは「水は社会を流れている血液」という言葉が紹介されました。一見、水の姿をしていない社会課題を解決することの重要性が込められた言葉ですね。
勉強会の最後は枝廣さんから「水道事業の民営化と再公営化」に関する質問がでました。日頃、日本の地方自治体と仕事をしている中で、水道事業などインフラの民営化が経済難の解決策として語られる節が気になっているものの、日本では民営化に関する情報が不足しているように感じられるそうです。
これを受けて橋本さんは大変丁寧に解説してくれました。環境条件が異なる様々な水源を管理するためにも基本的には各自治体が水道事業を営み、事業の規模が大きすぎないことで柔軟に機能していることが多かったそうです。しかし水道料金の仕組みはどうしても人口によって変動の影響がある仕組みになっていることから、老朽化にともなる施設更新などが各地で課題となりはじめました。
解決策の一つとして民営化、それも「コンセッション」と呼ばれる水道事業の権利を30年前後の長期間に渡って売却し、運営を全て民営期間に任せることが国会などで議題に上げられているのです。すでに「PFI法」として国会で改正されましたことの一つで、PFIとは民間のリソースを用いて公共施設を運営の仕組みのこと。公共事業を民営化することで経済成長すると掲げていたアベノミクスの一環です。
同様のケースは過去にイギリスやフランスで実施され、結果的には良い成果だったとは決して言えるものではありませんでした。長期間に渡り事業内容が不透明になりやすく、不適切な値上げやサービスの低下、さらに災害時の対応不足や倒産のリスクなど、懸念されることはたくさんあります。フランスもイギリスも、大きな痛手を伴いながら再度公営化しました。
橋本さんは、「水道事業の民営化は非常に難しいこと」と強調します。あわてて民営化する前に、まずはできることがある、と教えてくれました。例えば「費用の掛かる設備をダウンサイジングする」こと。大規模で集中型の浄水設備ではなく、小規模型にして点在させることで水質を維持することも可能であり、エネルギーも抑えることができるそうです。また、「浄水場や貯水施設を人口に合わせて減らすこと」もできるし「各地の流域にある水源を見直し」てみることで、配分できる水源もあるだろう、と具体的に希望を語ってくれました。
ここで思い出されるのは前途した「水が社会を流れる血流」という言葉です。血流に例えられるほどに重要であるならば、責任ある各地の首超さんには十分に検討して議論してほしいですし、私たちも疑問には声を上げていくことが大切だと実感しました。そのためにもきちんとした情報を学んでいきたいですね。
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(やなぎさわまどか)