第82回目の読書会、課題書は『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』(著:佐藤 航陽)です。経済システムの現状と、新たな経済の形が描かれベストセラーとなりました。お金というものが、古代から現在に渡り私たちの市民生活にどのように影響してきたのか。いわゆる経済を読み解くようなビジネス書とは一線を画し、貨幣経済とは何か、経済のあるべき形とは、と本質的に問いかけています。
読書会ではまず、グループに分かれて「お金」や「経済」が何かを考えました。それも、「初めて地球にやって来た宇宙人にお金や経済を説明してください」という、シンプルながらも難題の条件つき。各グループからは、お金が必要な理由や所有という概念の説明など、お金で表される「価値」に関することが挙がりました。
当初は「価値を運ぶツール」だったお金。その性質が変わったのは、約300年前の産業革命。工場をつくる原資や、労働者の生産手段として機能したお金は、神様や王様にとって代わって、人にとって大事なものになっていきます。人々は労働を切り売りして対価を得る「資本主義」が誕生し、手段であったお金が、目的になったのです。そして今や、お金がお金をつくりだす金融ビジネスとして発達しています。
筆者は経済の特徴を、このように時の流れで変化するもの、つまり動的であることだと解説しています。動的で、人と人のネットワークが繋がったり切れたりといった組み換えを繰り返していること。そこには偏りが起こり、ある種の不確実性があるからこそ、人同士が関わる社会活動を回す仕組みとして成り立っているのです。
枝廣さんもこの日何度かおっしゃっていましたが、私たちは生まれた時にすでに「経済」として存在していた現在のシステムが、まるで古(いにしえ)から未来永劫続くように感じるほど無意識に受け入れてしまいがちです。しかし過去から変容してきたものであることも知っているはずで、この先も変わることを大前提におくべきだったと気づかされました。
さらに筆者は、これからは新しい経済システムの形を描ける人同士が競争し、私たちはどの経済のあり方に参加するかを自ら選ぶことができるようになる、と予言めいたことを説いています。
現在の経済では、金融経済が実体経済よりも大きくなっており、お金はあり余ることでその価値を低下させています。それにより、人々が注目するポイントがお金という手段から、その根源である「価値」に向かうように。既存の経済システムでは見えにくかった有用性や内面的な価値、社会的な価値に重きを置く「価値経済」が生まれつつあるというのです。提供する価値と「経済的な成長との結びつきがより強くなることで、ビジネスはより公共性を帯びていくようになる」というくだりからは、SDGsにもつながる新しい経済の可能性も感じさせます。
テクノロジーの進化により、中央で鎮座するハブを介さないと成り立たない価値ではなく、分散して存在するわたしたち誰もが平等で、フラットに価値を交換しあえる仕組みも整いつつありますそれを「経済の民主化」と表し、近未来の社会性を示す筆者の解説には、将来に向けた一筋の安心感すら感じました。
本書は、筆者自身が自らの生まれを振り返り、「比較的裕福ではなかった」からこそ、「お金の正体を掴み、今よりも良い社会を自分の手で実現したい」という熱く頼もしい熱量に満ちています。
また、地球環境への敬意も随所に散りばめられており、健全な経済のあり方を自然の成り立ちになぞらえるくだりも印象的で、枝廣さんも「バイオミミクリーのような考え方を大きく捉え、社会全体で実現させるのが次世代の成功モデルとして持続できる」といった話をされていました。
変わりゆく経済を冷静に見つめ、わたしたち個人は日々の暮らしをどうデザインするのか。また、企業や地域といった私たちを取り巻くコミュニティーがどう変わるのか。この日も数回にわたるグループワークは、いつもながら濃縮した明るさを感じる議論が盛り上がりました。
幸せ研の読書会は「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について知り、考え、意見しあう場です。仮に課題図書を持ってない・読んでいない人でも参加可能ですので、どうぞお気軽にご参加ください。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページから!
(やなぎさわまどか)