幸せ経済社会研究所の第83回の読書会では、ステファーノ バルトリーニ著『幸せのマニフェスト 消費社会から関係の豊かな社会へ』を課題図書として取り上げました。
これまで読書会で取り上げてきた多くの書籍の中でも、社会環境と自然環境への悪影響から、これ以上の経済成長は現実的ではないという指摘がありました。戦後、アメリカをはじめ先進諸国の多くは資本主義をベースとした成長を目指し、経済の加速を進めてきましたが、それで私たちは本当に幸せになったのでしょうか。
本書が豊かな社会の基本として考えているのが「関係性」です。ともすると忘れがちなのですが、私たちの決断のほとんどすべては、人間関係に影響を与えます。しかし実際は、都市計画や学校のしくみなどで、関係性が考慮されることはありません。それは、経済と関係性の要求は対立することが多いからです。経済性か、関係性か、という選択肢になったときに経済性を優先させてきたのがアメリカをはじめとする先進国なのです。
本書ではアメリカにおける調査で、経済成長をめざす社会における悪循環をあぶり出しています。戦後高い経済成長を実現したアメリカでは、多くの人は消費主義的な豊かさを享受する一方で、長い時間を労働に費やしており、期限に対するプレッシャー、時間が足りないといった感覚にさいなまれているそうです。そうなると幸福度も低くなるのですが、その原因は自由時間の減少から起こる関係性の悪化と言えます。関係性が衰えるとそれを補うために経済的に豊かになろうと労働に没頭するようになり、そうするとまた関係性が衰える…といった負のループにはまってしまっているのです。
こうした関係性の貧困による不利益から生活を守るためのサービスは、先進国で活況になってきています。たとえば、ホームセキュリティやベビーシッター、老人ホームなど…。それまでは地域の人間との関係で防いでいた困難を、お金で防ぐことで成長している経済というものがあるのですね。それを本書では「防御的な経済成長」と言っています。孤独と不安によって動かされる経済…まったく幸せな感じがしませんよね。経済成長と幸せや社会の質を区別して考える必要があるのはそのためです。
こうした傾向を助長しているのが消費主義文化です。人間の行動には2種類の動機があります。ひとつは、知りたい、面白いといった気持ちから起こる内発的な動機。もうひとつは、はお小遣いがもらえる、地位を手に入れられるといった餌につられて起きるような外発的な動機です。消費主義文化を支える担い手となっている広告は、ふたつの動機のうち外発的な動機を強めるはたらきをしています。常に自分に「何かが足りない」と思わせたり、「これを手に入れるとこうなれる」思わせたりするイメージを植え付けるのです。大人はもちろんですが、心理的に無防備な子どもに消費主義文化が与える影響は深刻です。物が手に入らないと不幸だ、お金がないと不安だ、といったマインドをつくり、外発的動機に偏った意思決定をするようになってしまうからです。
そして、硬直化した教育と都市化も、関係性を貧しくする原因となっています。まずは教育。決まったルールを強制し、環境を変えられるという気持ちを起こさせないような規則で縛り付け、成績の競争をさせ…。これでは前向きな関係づくりをしようというマインドをつくるのは難しいですよね。そして都市生活。子どものときから多くの時間を家で過ごしがちで、外出するときは常に監視が必要という環境では、自ら関係性をつくる意志は芽生えにくくなります。
こうした状況から脱していくためには、一人ひとりが関係性を豊かにしていくことを意識していくしかありません。何かを選んだり決めたりするときに関係性を意識すること、そして、効率や利便性ではなく、どういった生き方が本当の幸せなのか 、それぞれが自分なりに考え、動くことが大事ですね。
幸せ研の読書会は、「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな課題について考え、対話する読書会です。課題図書の解説はもちろん、ディスカッションなどをおこない主体的に考えていきますので、理解をより深められるチャンスにもなります。もちろん課題図書を読んでいない人でも大丈夫。ぜひお気軽にご参加ください。ご案内はこちらの幸せ経済研究所のホームページから!
(POZIインターン:関山千華)