第84回目となる読書会の課題書は各国でベストセラーとなった書籍『ティール組織』(著:フレデリック・ラルー)。ティール型の名前は聞いたことあるけどどういう意味?組織論のこと?そもそもティールって何??そんな声も多数聞こえてきそうですが、実はこの本は私たちの生き方や社会のあり方に通じるお話を説いたもの。今回もいつも通りの2時間で、なんと500ページという大作を読み解く、充実の読書会となりました。
「この本を取り上げたかった理由は、組織や企業論というよりも、人間の幸せってなんだろう?と考える機会にふさわしいと思ったから」と枝廣さんが言うように、本書は幸せと経済と社会の関係性を問いかけています。
私たちの多くは1日の大半を働くことに費やしているわけですが、著者は、働き方、ひいては組織のあり方を5つのモデルに分け、それぞれが「人の進化によって変化するもの」と提起しています。かつてはブッダなど例外的な存在でしかなかった「エゴを抑えた健全な精神の持ち主」が人類の全体的な意識として進化しつつあること、そしてその変化に合わせて組織のあり方も変化すると考えるからなのだとか。
では、5つの組織モデルとはどんなものなのでしょうか?筆者はそれぞれを色分けして分類しています。まず最も原始的な形は「衝動型」で、絶対的なトップが下層のメンバーに対して恐怖をあたえて動かすような組織、例えるならギャングやマフィアや紛争地域の組織で、イメージカラーは血をイメージする「赤(レッド)」。現代でもなくなったわけではありませんが、幸福の対極にいるような組織のあり方とも言えそうです。
そこから進化すると、各自が役割を持った「順応型」に変化します。組織のためになることこそが正しさであり、組織図が存在し、関わる人たちは組織のためになる役割が与えられる。少しきつい言葉ですが、言うなれば「組織の部品」として交換可能な役割となることで組織に居続けることができる。当てはまるのは政府機関や軍隊、警察といったもので、制服や階級が存在する順応型の色は「茶色(アンバー)」です。
順応型から進化すると、現在多くの企業が当てはまる、成果が重要視される「達成型」となります。利益を追従し、今この瞬間よりも未来を見据えてイノベーションを繰り返す。成果を取りに行く、まるでフルーツをもぎ取るというイメージから「オレンジ」色で示されています。しかし行き過ぎたイノベーションも先進国ではもはややり尽くした感も否めません。
続く進化のかたちは、組織における重要性を利益だけで測らずに、地域社会や資源、従業員の満足度や地球環境など、大切なことはいくつもあると考える「多元型」、色で言えば「グリーン」に進化します。トップダウンではなくボトムアップ型で、合意形成のプロセスを大事にしたり、調和や教育といった事柄を重要視する。社会的課題の解決を目的にしたNGOや社会的企業などが当てはまります。
ここで枝廣さんからは「自分の会社はこれらのどの辺りか考えてみましょう」、と参加者同士で対話する時間を設けられましたが、どの企業がどのモデルかを見極める際は、まずその組織の構造や指揮系統のあり方、もしくは組織内で意見が違った時の解決方法、さらには、組織の風土や文化などをみるのがポイントになり、本書では進化段階での比較も解説されています。
そしていよいよ、多元型からさらに進んだモデル、「進化型」と定義される「ティール」色の解説に入ります。そう、ティールとは色の名前で、本書のカバーで示された青緑色のこと。オンラインで買い物などをする際に、青っぽい服にティールブルー、緑っぽい色だとティールグリーンと書かれているのを見たことがある方もいるかもしれませんね。
進化型のティール組織では、エゴの刺激や支配欲などを手放し、結果を目的にするのではなく、個人がより自分らしく生きる組織を示しています。例えるなら「生命体」であり、周りの変化に合わせて組織自体も柔軟に変容する、まるで、自然や生態系のような組織のあり方のことです。
トップが存在する組織ではないので、マネージメントは誰かの管理下なのではなく、自己組織型。いわゆるトップにあたる人は、組織を引率するリーダーなのではなく、あくまでも進化型のあり方を保てるように努める役割であるだけです。とはいえ、組織運営をセルフマネージメントするなどといったことが自然にできる人は少ないので、たとえば、意見が異なるときや意思決定が必要になるような問題解決に向けて、徹底したトレーニングが行われ、この組織にかかわる人たちは繰り返し学んで身につけることが必要とされています。
また、個人の自分らしさを丸ごと組織のために活かせることも重要視されています。例えば論理性や強さなど、人格の一部だけを仕事上の役割として求められると、求められた部分だけを職場に持ち込むことになりますが、それでは個人の一部のエネルギーだけしか仕事に向けられません。すると職場における創造性までもが不足。それよりも、その人丸ごと、自分らしさを全てホールネスで活かせるようにするのが進化型のあり方です。
そして、組織が存在する目的を常に意識すること。そうすることで、誰と働くのか、何をしたらいいのか、といったことが明確にできる。繰り返し繰り返し存在目的を考える機会を持つことで、なんらかの外部要因で望まない組織変化をしてしまうようなこともありません。
組織が自ら動き、全エネルギーが活用され、意思決定も早い。これらの点により、進化型になると収益性も高まるとされています。なんだかまるでティール組織は夢のような理想のかたちにも思われがちですが、これらは偶然の産物なのではなく、こうあるための構造、やり方、文化がきちんと揃うことが必須となります。
著者はけっして、進化型が最終帰結とも明言せず、このまま進化すればいつか「ゼロ成長」「循環型経済」が実現すると提起してもいます。成長を目的に不要な産物をつくるような経済のあり方ではなく、より内面的な成長を目指すこと。現在多くの人が限界を感じつつあるところにこそ、進化の余地があるというのです。それはまさに、この読書会を通じて枝廣さんが伝え続け、私たちが学び続けていることと共通する姿。こういうことが将来あり得るかもしれない、と頭に置いておくことで、安心感のある未来が感じられる内容となりました。
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(やなぎさわまどか)