幸せ研、第86回の読書会は、ズバリ『幸福学』というタイトルの本を課題図書にして行われました。
この本は、ハーバード・ビジネス・レビューから、幸福をテーマにした論文を8本集めて編集したもの。本書の前書で、日本の幸せ研究の第一人者である前野隆司先生がまず、「幸せ」をめぐる英語について整理されています。
「幸せ」の英語での直訳は”happy”や”happinesss”ということになりますが、これらは「ワクワクした気分」という短期スパンの心の状態を表現するときに使われます。ところが、日本語で表される「幸せ」は、もっと長いスパンの心の状態も含みます。たとえば、「しみじみ幸せ」とは言いますが、「しみじみハッピー」とは言いませんよね。日本語での「幸せ」は、英語で「良き在り方」や「良い状態」を表す”well-being”も含む、広い概念の言葉なのですね。
その点、本書はビジネスにおけるマネジメントの観点で「幸せ」を扱っているので、英語における”happy/happiness”、つまり短いスパンでの心の状態について述べられていることが多いとのことです。
読書会では、参加者のみなさんの実際のビジネス現場をふまえたワークショップを交えながら、8本のうち、2本の論文について枝廣先生からレクチャーを受けました。
まずは、「2.幸福の心理学」という論文について。筆者は、幸福に関する科学的な文献のすべてを要約すると、ひとつの結論が見えてくると述べます。その結論は、「幸福度は、その人の人間関係、すなわち友人や家族との絆の強さから予測できる」というもの。
枝廣先生はテレビ番組で、「90歳代に幸せのピークを持っていくにはどんな資産が必要ですか?」という質問をされて、こう答えたそうです。「投資というのは、お金と、それ以外の投資があると思っています。お金だけ眺めていても幸せになれませんよね。お金以外の資産を形成するために投資をすることも大切です。自分の勉強や趣味、やりがいや生きがい、そして人づきあいなどです。そして、社会的なものへの投資としての寄付や支援。自分がより大きなものの一部として生きているという実感が得られるし、人のためにお金を使うと幸福度も上がるんですよ」と。
人のためにお金や時間を使うというのは、幸せの基本となる人間関係を築いていくという意味でも大切なのですね。
そして、心理学者のエド・ディーナーの研究によると、ポジティブな経験は「強さよりも頻度」の方が幸福度に影響するのだそうです。本当に驚くようなことが一生に一度起きるような人より、毎日ささやかな良いことが十数回起きる人のほうが幸せな可能性が高いということですね。
また、「トラック・ユア・ハピネス」研究プロジェクトによると、人間の心というのは、1日のほぼ半分はさまよっている状態なのだとか。何を行っているにせよ、心が定まっていない時は集中している時よりもはるかに幸福度は低くなるそうです。
筆者によると、幸福実現というのは、なんと「ダイエットと同じようなもの」なのだそうです。一瞬で成果が出る魔法の薬などはなく、集中力を高めるための瞑想、十分な睡眠、運動、そして利他主義を実践するといったことを毎日続け、成果が出るのを待つのみ、とのこと。これはかなり大変ですね…。
次に枝廣先生が取り上げた論文は「4.インナーワークライフの質を高める『進捗の法則』」。
この論文によると、社員の意欲を高めるカギは「有意義な仕事の進捗を図ること」。進捗の頻度が増えれば増えるほど、創造的な仕事の生産性を長期的に高められるそうです。やる気→行動→成果というサイクルの中で、プチ成果を取り込んでいくことで仕事は大きく変わるかもしれませんね。
最後に枝廣先生は、本書に対する違和感として、幸福が仕事のパフォーマンス向上のための手段となっていることを指摘されました。何のための仕事かというと、結局、人生における幸せのためですよね。ビジネスが幸せになっていくのはよいことですが、そこを履き違えてはいけないな、と考えさせられました。
幸せ研の読書会は「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について知り、考え、話し合う場です。課題図書を持っていない・読んでいない人でも参加可能ですので、どうぞお気軽にご参加ください。ご案内はこちらの「幸せ経済社会研究所」のページから!
(POZIプランナー 丸原孝紀)