ホーム幸せ経済社会研究所「どうにもならない…」が、あなたを強くする。意図的な”宙ぶらりん”こそが新たなスキルとなる。『ネガティブ・ケイパビリティ』読書会レポート

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「どうにもならない…」が、あなたを強くする。意図的な”宙ぶらりん”こそが新たなスキルとなる。『ネガティブ・ケイパビリティ』読書会レポート

第87回目の読書会は、枝廣さん自らが「ちょっと変わった本」と紹介する『ネガティブ・ケイパビリティ』(著:帚木 蓬生)を取りあげます。聞きなれない言葉かもしれませんが「ネガティブ ケイパビリティ」とは一体どんなもので、どうして重要視されるべきかを繰り返し議論し続けた読書会の様子をお届けします。

枝廣さんは、ご自身がいち参加者として「日本アスペン研究所」のセミナーに参加し、国内外の古典を読み解きながら議論する際にこの本を紹介されたそうです。幸せ研究所の毎月の課題書に比べると比較的薄めである本書は、ご参加者の多くがすでに読み終えていたこともあり、まずは「ネガティブ・ケイパビリティとは何であるかを自分の言葉で語ろう」というスモールディスカッションでスタートしました。

本書では、「ネガティブ・ケイパビリティとは、答えが出ない、対処のしようがない事態に耐える能力」と定義されています。状況や事態の理由や証明の類を求めることなく、不確実で、不思議な環境に耐えるスキル。本書では繰り返し「宙ぶらりん」という言葉で語られています。

ただ単に「諦めずに続ける力」とは一線を画していて、例えば、”1万回の失敗をした”とされるかのエジソンは、行き着きたいゴールが描けていたからこそ諦めずに1万回もチャレンジを続けられました。一方、精神科医やカウンセラーなどはあるべきゴールが不確かな状況で、しかしそれでも対応を続けることが求められるもの。ネガティブ・ケイパビリティとは、そうした不確実で、コントロール不可な状況下でも「宙ぶらりん」であることを指しています。

筆者は「ネガティブ・ケイパビリティは大事な能力であり、ネガティブ・ケイパビリティがあるからこそ本質に迫り、寛容でいられて、ネガティブ・ケイパビリティがなければ共感力も育まれない」となぜそれほど大切なのでしょうか。比較的、概念的な問いが続くため、今回の読書会はいつも以上にグループディスカッションを度々繰り返しました。

ネガティブ・ケイパビリティのメリットを考えるとき、枝廣さんはご自身がカウンセラーとしてトレーニングしていた時のことから2つの事例を共有してくれました。

「悩みを抱えたカウンセリングの対象者と話しながら、似た症例を知っているとか、以前の実例と似てるからまた同じように解決できるかもしれない、などと勝手に解釈しや意味づけをしてしまうと、そのカウンセリングはうまくいかないんです」

合わせて、もうひとつご自身の事例は、誰かにインタビューする側になったときの話でした。

「取材やインタビューも同様に、相手の話を聞きながら、あぁわかった、と思った時点でもう考えることをやめてしまい、何かしらの意味づけをしていることになるんです」

このふたつの事例から言えることは「相手の考えが自分にわかる、もしくは考え方が自分に似ていると思った時点でわたしたちは考えることをやめてしまう=思考停止」ということでした。それは人間の脳の仕組みでもあり、”よくわからないことをどうにかしよう”という働きをするようになっているんだとか。私たち人間は、脳による希望的観測の傾向をもって、社会性や生命力を保持していられるというのが興味深い話でもあります。

最後のディスカッションでは、各グループに分かれて「ネガティブ・ケイパビリティを鍛える10の方法」を考える時間となりました。実はこの本では、ネガティブ・ケイパビリティを確立する大切さこそ繰り返し述べられているものの、どうしたらネガティブ・ケイパビリティが鍛えられるのかの具体案が示されておらず、この場で考えてみようということになったのです。

参加者の皆さんから出た案はどれも納得のことばかり。例えば「自分とは真逆の政治思想をもった政党の話をあえて聞いてみる」ことや「会話中、相手に共感を覚えても、あえて意思を持って相違点を探す」訓練をする、または「自然や天候など、自分の都合ではどうしようもない農業などに挑戦すること」、さらには「結論や正解が出ない、この読書会に毎回出ること!」なんていう案には枝廣さんも「鍛えてあげましょう」と笑顔で応えていました。

ただ、ネガティブ・ケイパビリティを発揮するとき必ずしも辛いだけではなく、前方だけではなく後方に向かうことだってあると理解することが大切になるようです。辛さに耐えることが重要なのではなく、自分や相手への信頼をもった上で思考を”宙ぶらりん”にし、理解できないものにも耐えること。

今や小さなデバイスに問いかけるだけで瞬時に解が得られるこの時代に、あえて自ら耐える意思をもち行動する。そんなネガティブ・ケイパビリティこそが、あなたの思考力を次なる次元に押し上げてくれるもののようです。

幸せ研の読書会は「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について知り、考え、意見しあう場です。仮に課題図書を持ってない・読んでいない人でも参加可能ですので、どうぞお気軽にご参加ください。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページから!

(やなぎさわまどか)