第88回目となった読書会の課題書は『サブスクリプション』(著:ティエン・ツォ/ゲイブ・ワイザード)でした。様々な業界で進む新たなビジネスモデル「サブスクリプションサービス」について、多側面から考えた読書会の様子をお知らせします。
AmazonプライムやNetflix、またはカーシェアリングなどを利用したことはあるでしょうか。これらのサービスのように、「所有」ではなく「利用」を価値として提供し、顧客と長期的な関係を築くビジネスモデルを「サブスクリプションサービス」と呼びます。このビジネスモデルが近年台頭してきた背景や、これからの展望を解説した本書。読書会ではいつも通り小さなグループディスカッションを交えながら「サブスクリプションの定義」は何か、そして「サブスクリプションによる環境負荷」を問う時間となりました。
本書曰く、あらゆる事業が従来通りの製品開発と販売促進をベースにした「製品中心」から、ユーザーの満足度を上げる「顧客中心」のビジネスモデルに変化するそうです。すでに変わりつつある企業もあり、今後5〜10年で大きくシフトすることを予言しています。また、ここでいう顧客とは、大まかにグルーピングされた対象ではなく、個人であること。その個人も状況によってニーズは変化するため、提供するサービスも変化にあわせて対応することが望ましくなるそうです。
製品中心であれば大ヒットを作り出し、たくさん売り上げることが求められ、故に購買意欲を刺激する広告やマーケティングが求められますが、顧客ひとり一人の目線を考慮する場合は個人の要求に敏感であること。場合によってはアップグレードだけでなくダウングレードを含めてでも長期間的に利用してもらうことを是とします。
サブスクリプションの顧客がもたらすものは、「定期収益」(リカーリングレベニュー)と呼ばれています。recurring(リカーリング)とは「繰り返し続く」という意味であることから、必ずしも毎月や毎年といった一定期とも限らず、利用が継続される構造を意味し、枝廣さんも「未だ適した日本語訳はないみたいですね」と話すとおり、本によっては経常収益と訳されることもあるようです。
ここで、この日2回目のグループディスカッションの時間をもち、参加者自身が利用しているサービス先を挙げて共有し合いました。日本でもコーヒーショップやラーメン屋さんなどで毎月定額を支払い何度でも飲食できるサービスが始まったり、洋服も所有せずに定額料金でレンタルしたりできるなど、様々なサービスが挙がりました。
欧米の事例としては、UberとSpotifyが協働することで配車された車に乗った途端好みのBGMを楽しめるサービスや、ボルボの小型SUV車を所有することなく定額で利用できるサービス、そして、初めて訪れた街でもスマホひとつで一番近くのスターバックスがすぐ見つけられて、カウンターでいつものラテを提供してもらえるといったサービスなどが本書でも紹介されています。
「ここまで進むと好き嫌いがありそうですね」と枝廣さんも言う通り、消費におけるAIの活躍は止まらない勢いです。企業側は個別のニーズや要求を細やかに把握するためにIoTを利用することが欠かせません。またサブスクリプションサービスにおいては、自社の顧客は何を求めているかを再定義することが重要です。所有以外に顧客が期待するものは何か、それによりどうやって長期的関係が築けて、さらに、継続的な価値を提供できるのか、という新しい問いが求められてきます。
読書会最後のディスカッションでは、サブスクリプション化していくことで社会課題にはどう影響するのかを考える時間をもちました。定額使い放題によって消費が加速することのメリット・デメリット、個別対応が進むことで個配などの環境負荷をどう計測するのか、また、ビッグデータの利用による情報漏洩の危険性など、私たちが考えるべき課題もたくさんあるようです。
枝廣さんかは「企業や事業の存続だけが目的になるのではなく、エシカル商品や環境配慮など、足るを知るサブスクリプションが待ち望まれますね」とまとめられました。便利さは大いに歓迎ですが、社会性を保ちながら知性や文化も、個の尊厳とともに守られるにイノベーションに期待したいと思います。
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(やなぎさわまどか)