第90回読書会の課題図書は、吉野太喜氏の著書『平成の通信簿』でした。本書は世界の中の日本、労働・経済、家計・暮らし、身体・健康という大きなくくりの中から27の局面を取り出し、平成という時代にまつわる106のデータを紹介しています。今回の読書会は106のデータから参加者それぞれが気になったものをチョイスし平成を振り返る、ディスカッション中心の会となりました。
まず本書で取り上げられている項目のうち、興味深かったものや日本にとって重要だと思うことについてのディスカッションです。外国人の流入数が予想以上に多くて驚いたという話や、教育にかけるお金が低くなってきていることから、日本の科学力低下を懸念する声。エネルギー消費量は環境問題にもつながるので重要だという意見など、参加者のみなさんそれぞれの視点でデータを取り上げていきました。
ここで考えるポイントのひとつとして、枝廣先生から「リーケージ」というワードが提示されます。リーケージ (leakage)は「漏れ」という意味で、例えば日本から海外へ生産活動を移転すると日本国内のCO2排出量は減少しますが、移転先の生産効率が日本より悪い場合、トータルで見るとかえってCO2排出量は増えてしまうといった現象です。今回の講義は平成の日本の振り返りですが、どんな問題でもやはり世界とつながっていることを気づかされますね。
つぎに、データを2つ掛け合わせることで何が見えてくるかを話し合いました。エネルギー消費量と国債の発行額の相関関係に注目したグループからは、再生可能エネルギーの普及が加速することで国の借金も減っていくのではという考察がなされます。
それに対して枝廣先生からは、日本で再生可能エネルギーが普及しない理由についての解説がありました。理由として挙げられたのは、送電網の問題です。全国的な整備は民間の電力会社で解決できないので、国家プロジェクトとして取り組む必要がある。そうなれば結局また国債を発行しなくてはならないという側面もあるとのことでした。
これに加えて「Worse before better」という考え方についても解説がありました。システム思考でよく用いられる考え方で、最初は整備のために投資するが、あとから支出を減らし利益を創出していって、自分たちで賄えるようにするというものです。しかし再生可能エネルギーについて、今の日本は国民に利益を還そうとしていないのは問題であるという指摘をなさいました。
次のディスカッションは、日本の労働生産性の低さについてです。日本の労働生産性は実は先進国の中でも極めて低く、主要7か国の中ではなんと最下位。しかもそれは平成がはじまった頃からずっと同じだというのです。本書では日本人のやる気のなさが指摘されていて、仕事に対するやる気の調査では、ほぼすべての調査で最低ランクであったと書かれています。
参加者のみなさんの対話の中で、終身雇用制の弊害や日本人の自己評価の低さなどが原因として挙げられましたが、枝廣先生は新しい視点を提示しました。それは日本の失業率の低さ。失業率が低いということは、やる気のない人でもちゃんと働ける社会だという見方もあるとのことです。別のデータも併せてみることで、また新しい側面がみえてくるのですね。
最後に、平成は幸せな時代だったのかを話し合いました。さまざまな意見が出ましたが、本書に幸福度そのもののデータは載っていないので、後日内閣府のデータを用いて議論を深めていきました。データによると近年幸福度は上昇する傾向にあります。またリーマンショック直後に上がっていることなどから、必ずしも経済状況とリンクしていないようです。
枝廣先生からは、データを読み解く際に2点の注意すべきポイントが挙げられました。1つ目は、人間は慣れるということ。どんな不幸な状況でも、時間とともに人間はその状況になれて、そこから幸福度もあがっていくそうです。2つ目に、幸福度は周りとの比較で判断するということ。その証拠に、バブル期には幸福度は下がっています。経済的な豊かさがイコール幸せではないということが、ここからも読み解けそうです。
さまざまなデータとともに平成の30年間を振り返った本講義。果たして平成はどんな時代だったのか。おそらくこれから激しい変化を経験するだろう令和の時代のはじまりに、振り返ってみるいい機会かもしれません。
幸せ研の読書会は、「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について考え、対話する読書会です。課題図書を読んでいない人でも参加できますので、ぜひお気軽にご参加ください。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページから!
(POZIプランナー 伊藤恵)