ホーム幸せ経済社会研究所市町村消滅論は本当か?地域再興への現実的なプランを学ぶ 『田園回帰1%戦略:地元に人と仕事を取り戻す』読書会レポート

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市町村消滅論は本当か?地域再興への現実的なプランを学ぶ 『田園回帰1%戦略:地元に人と仕事を取り戻す』読書会レポート

第91回目読書会の課題図書は、『田園回帰1%戦略:地元に人と仕事を取り戻す』(著:藤山 浩)でした。本書は、人口減少の問題を抱える地域がどのように手を打ち、そのために必要な資金をどう取り戻していくべきか、という考え方を学べる内容となっています。読書会では、枝廣先生から事例などを交えながらお話しいただき、ディスカッションを通じて地域の抱える諸問題解決策について考えました。

本書の序章では、日本創生会議が2014年に発表した「市町村消滅論」について言及しています。2040年までに日本の半分くらいの市区町村が人口不足で存続できなくなるというその内容は、多くの地域に衝撃をもって受け止められました。この「市町村消滅論」に対し、著者は疑問を呈しています。東日本大震災前のデータを使用していることや人の移動について少なめに見積もられていることなどから、実態を反映しているとは言えないからです。

2014年、人口急減・超高齢化に政府一体となって取り組み、それぞれの地域の特徴を活かした自律的で持続的な社会の創生を目指す「まち・ひと・しごと創生総合戦略」がスタート。6年目となる2020年には、第2期として地方創世の次のステージへと進んでいます。第1期は、まず仕事を作ることで人が来て街ができる、という考え方のもと進められていました。しかし期待した結果が得られなかったため、第2期では、先に魅力的な街を作り人、そして仕事を呼び込むという方針にシフトしています。

今回枝廣先生は、この第2期の取り組みの中で、「関係人口の創出・拡大」を一つのテーマとして取り上げられました。まず「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指します。この関係人口は将来的な地方移住にもつながるため、地方への人・資金の流れを強化する上で重要な層となります。

関係人口創出に成功し状況から回復した地域として、海士町(あまちょう)が例に挙げられました。島根県の離島で、深刻な人口減少・財政悪化、県立高校も廃校の危機でしたが、様々な取り組みが功を奏しIターン・Uターンの多い「人が帰ってくる・入ってくるまち」へと変わっていきました。生徒や学級・教職員も増え、超少子高齢化地域では異例のV字回復を遂げています。

ここで、関係人口創出の成功要因についてディスカッションしました。参加された方のご意見にもありましたが、枝廣先生曰く、やはり「人」が重要になってくるとのこと。いろいろなアイデアを出すだけでなく実際に工夫して行動に移せる運営主体の人がいることがカギになるようです。また、一人だと持続可能性が危ういため、そういった人が複数いること、NPOなどにいなければ行政職員が柔軟に対応できるかどうかも重要とのことでした。物産展などを行う地域は多くありますが、それだけでは関係人口創出にはつながりにくく、取り組み方も試行錯誤していく必要があります。先ほど例に挙がっていた海士町では、東京などの都市部で地域の魅力を発信する「離島キッチン」「島の大使館」といった取り組みを行っており、ただ物を売るだけでなく、都市部の人々との関係性を築く工夫がなされています。

次に、本書の著者がすすめているコーホート変化率法を利用した考え方を学びました。今の人口と5年前の人口を比べてその5年間の変化が続くとどうなるかを計算する方法で、人口が安定するために必要とされる定住組数を割り出すことができます。

今回は、このコーホート変化率法をエクセルに組み込んだ「ワークシート人口分析&予測プログラム」について、実際に下川町でシミュレーションしたものを例に紹介していただきました。あと何組増やせば人口が安定化するのかが具体的に数値化され、政策の目安を立てやすくなるため、具体的な取り組みや条件整備につなげることができます。人口減少の問題を効率的に解決していくためにも、こういったプログラムを活用し、目に見える形で目標を定めることは大変重要ではないでしょうか。

他にも、「地域人口1%取り戻し理論」についてご説明いただきました。これは毎年1%ずつ地域人口を増やしていく戦略です。実際に人口の1%を算出すると毎年の取り組みとしては小さな数字となりますが、これを続けていくことで全国的に見ても人口減少・高齢化・少子化ストップが見えてくるとのことです。また、戦後の団地などに見られるように、一度にたくさんの人口を流入させることは、一斉高齢化を招くことにもつながります。人口急増による地元住民への影響などを考えても、焦って集中的な是正を図るのではなく、小さな数字の積み重ねで徐々に改善していくことが理想的なようです。

住民を増加させるために大切なのは、所得が増えること。そこで提案されているのが、人口と共に所得も1%ずつ増やそうという試み、「所得の1%取り戻し戦略」です。「外部依存の高さ」に着目し、地域外から購入している分、つまり「域外流出」している部分を域内代替していくことで所得増加を目指すのです。例えば、車の生産はできなくても、使用する燃料は地域の再生可能エネルギーにする、といった工夫をしていくことが考えられます。

最後に、今回の内容について自由なディスカッションの時間が設けられました。様々な意見の共有がされる中で、「地域人口1%取り戻し戦略」に関しての懸念点なども見えてきました。枝廣先生から、個別の解が必ずしも全体の解にはならない、というお話があった通り、人口の少ない地域同士の奪い合いになってしまうと日本全体としての解決には至りません。また、出生率の低い地域への移住が増えると子どもが少なくなるということもあり、1%の人がどこから来るかという点は重要な問題であることが窺えます。

この読書会を通して、人口減少問題はそれぞれの地域だけでなく、日本全体で問題意識をもつべき課題であると感じました。また、課題解決をするためには一点だけに集中するのではなく物事を多角的に見ることが必要であると改めて考えさせられました。

幸せ研の読書会は「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について知り、考え、意見しあう場です。仮に課題図書を持ってない・読んでいない人でも参加可能ですので、どうぞお気軽にご参加ください。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページから!

(POZIプランナー 井上慶美)