第92回目の読書会は『ドーナツ経済学が世界を救う』(著:ケイト・ラワース)を課題書にして、新しい経済のあり方を議論しました。筆者を知る枝廣さんは2012年の発売時にドーナツ経済の概念に触れ、「とても素晴らしいから日本でも知られてほしい」と思ったんだとか。日本語版に約6年を経ていますが、より現実的な概念でもあり、この日の議論はいつも以上に盛り上がりを見せていました。
環境問題に長年向き合っている枝廣さんの言葉はとても説得力があるものです。2011年に「幸せ経済社会研究所」を立ち上げる際、環境問題の解決のためには環境問題と同じように、人々の幸せや社会のあり方を考えなくては解決できないと考えたことがきっかけになったそうです。
その後2015年には国連でSDGsが策定され、世界が持続可能な場所となるための17のゴールが明確に挙げられました。それらを見ていくと、大まかに2つの分類であることにお気づきでしょうか?たとえば教育・医療・食糧など社会面における「どこかで不足が起きている項目」と、温暖化や生物多様性の保護など環境面における「限界ラインを超えてしまった項目」です。
それぞれに専門家が問題対策をしてきましたが、もはや地球は、それらを同時に考えねばいかないレベルにある、というのが現実。本書の筆者であるケイトさんは経済学者のため、この地球上の包括的な問題解決のために、従来の経済とは違う経済のあり方を提唱します。
その考え方をわかりやすく図解したところ、地球上で不足している社会面を輪の内側に、そして環境面で超過しているものは輪の外側に示し、中間にあるドーナツ型の範囲で循環する経済のあり方を「ドーナツ経済」として体系化しました。
読書会では今回も小さな議論とグループワークを重ねましたが、「地球上にある課題を挙げる」や「なぜ輪の内側も外側も悪化しているのか」といった漠とした問いにも毎回盛り上がるのがすごい。枝廣さんも「この問いで盛り上がれるのも珍しいですよね」と嬉しそうにされていました。
本書の主張に戻ると、筆者は経済学者であるからこそ、経済の重要性を非常によく理解しています。だからこそ経済を否定せず、あり方を変えようとするのでした。そのためにも、新しい経済の姿をわかりやすく示し、従来のGDPを追求する成長型経済を旧来のものに変える必要性を解いています。新たにドーナツ経済への理解を深めて、うまく移行するために必要な発想の転換を具体的に7つ挙げ、本書の後半ではそれぞれの項目を一章ずつ掛けて説明しています。
それらを通して繰り返し問われるのは、ひたすら盲目的に追い求めていた経済の「成長」から「繁栄」へのシフトです。すでに世界中がマイナス金利で、且つ、経済活動と環境資源の消費がバランスを崩している今、何が何でも経済成長することを目標にしてきた時代を終わりにしようとうたいます。わたしたちは、成長を終えた次の経済を作り出すための、第一で唯一の世代として、成長しようとしまいと繁栄できる社会の仕組みに切り替えなくてはならないのです。
グループワークでは、成長と繁栄の違いを明文化する時間がありました。
「グラフにした場合、成長は一直線だけど繁栄はサークルなど曲線的」
「成長は競争を想起させるけど、繁栄にはそれがない」
「成長を示す言葉は伸び率、繁栄を示すのは充足」
といった大変納得できる案で盛り上がりました。また、枝廣さんからも「かつて非常に栄えた中国の君主時代や、日本でも長く治めていた江戸時代など、君主が求めたのは成長ではなく、繁栄を目指していた」という例えも加わり、成長よりも繁栄のあり方に希望の光を感じます。
またこれらの大きな経済の変革に欠かせない資質として、局所的な近視眼を避けること、物事を全体的に眺めて、どことどこが繋がっているかを紐解く「システム思考」の重要性も話題に挙がりました。これぞまさに、幸せと、経済と、社会という多面的な学びを深めるこの勉強会にぴったり。毎回のグループワークが盛り上がるのも当然だったかもしれませんね。
変革には時間が掛かりますが、その速さを変えるのは、今わたしたちが選ぶものにかかっていると感じます。速さの角度を少しでも上げるために、理想を具体的にビジョンし続けていきましょう。
幸せ研の読書会は「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について知り、考え、意見しあう場です。仮に課題図書を持ってない・読んでいない人でも参加可能ですので、どうぞお気軽にご参加ください。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページから!
(やなぎさわまどか)