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人類の歴史はずばり、感染症との戦いの歴史。コロナ禍だからこそウィルスとの共生を問う『感染症と私たちの歴史・これから』読書会レポート

第98回目の読書会は新型コロナウィルス感染拡大を考慮し、一つの部屋に集まっていたスタイルを変更させ、初のオンライン開催となりました。枝廣さんによる課題書のレクチャー動画を見た後、別日にディスカッションを開催するという2段方式です。そして今回の課題書はずばり『感染症と私たちの歴史・これから (清水書院)』(著:飯島 渉)。本書は2018年に書かれたものですが、コロナ禍に読むと相当な現実味が迫ります。枝廣さんも「この時から何か学べなかったのだろうか」と感じられたと切り出しながら、本書のメッセージを整理してくださいました。

本書ではまず、感染症とは何か、そして、人類が歩んできた感染症の歴史を解説しています。感染症とは、病原性微生物の感染によって引き起こされる病気のことで、筆者は「感染症は生活に深く関連し、人類の歴史は感染症との戦いの歴史であった」ことを大きく定義しています。

人類はアフリカ大陸で誕生した後、時間をかけて移動してきました。人が移動するときは病原菌もまた一緒に移動していきます。最初の大きな分岐点は約1万年前、狩猟採集から農業や牧畜がはじまり、安定した暮らし方は一気に人口を増加させました。狩猟採集時代は数十万〜100万人程度だったとされる人口は、農業革命によって1億人に達し、紀元前後ですでに3億人の人口にまで増加。同時に感染症が新しいフェーズに入りました。枝廣さんは「人口増加は環境問題にとっても大きな問題につながるが、感染症にとっても同様に大きく影響をもたらす要素だった」と付け加えていました。

約7000年前には稲作が始まり、蚊の温床となった水田が増えたことで感染症の媒介が始まります。また、少しずつ交通が発展し、特に大陸を繋いだシルクロードの繁栄によって、かつて限定的な地域における風土病だった感染症が広がるようになります。本書ではこうした状況を、「疫学的な条件の均一化」と専門的に表現していました。

1500年代、アステカ帝国やインカ帝国の制服時、スペイン人が天然痘などの感染症を持ち込み、それに対する抵抗力がなかった先住民の人口は激減。アメリカ大陸植民地化の最も重要な要因は天然痘だったと言われているそうです。

日本でも、735年に帰国した遣唐使によって天然痘が大流行しました。東大寺の大仏は平癒を願って建立され、また、現代でも福島県の代表的な民芸玩具である「あかべこ」は天然痘を表した黒と白の柄が施された厄除けとされています。かつて日本は鎖国を行い、新しい感染症は防げていたものの、天然痘はすでに土着化していました。免疫をもつ人口の増減に止まって定期的に流行を繰り返し、江戸時代でも十数回、猛威を振るったと言われています。

18世紀後半に産業革命が始まった欧州では、汽車などの交通手段の発展により人の移動が早まり、それに伴って感染リスクも拡大しました。同時に、過酷な労働条件によって免疫も低下していた労働者たちが度々の被害を受けました。19世紀後半になると、感染症予防のために公衆衛生という概念が出現し、上下水道の整備や、し尿処理などが政府の仕事となります。

こうしてみると、まさに人類は感染症に影響を受けて変化を重ねてきたように思います。同じ文脈で忘れてはならない過去の出来事は、戦争における感染症の影響です。マラリアが大流行したことで兵力を弱めたり、停戦後に復員した兵士が母国に戻って感染拡大を引き起こすなど、感染症は戦況にも戦果にも影響をおよぼしました。また、日本軍も第二次世界大戦中に中国でペスト菌を散布したように、戦時で使われた細菌兵器についても忘れてはならないことだと本書に記されています。

近代に入り、WHOがリードする形で天然痘などいくつかの感染症は制圧に成功しましたが、同時に新興感染症も登場しました。21世紀初めまでに2500万もの命を奪ったAIDSや、ラッサ熱、エボラ出血熱、2003年に拡大したSARSも記憶に新しいことでしょう。

筆者は「感染症は完全に制圧できるものではなく、人類は、どう共生していくかを考えるべき」だと伝えていますが、それは歴史を見た上で、「人類の変化に、決定的な影響を及ぼすものが感染病だった」と読み取れるからなのでしょう。

かつてのスペイン風邪が近代史の始まりを促進させたように、現在進行中である新型コロナウィルスもおそらく、新たな変容の序章に当たるのかもしれません。枝廣さんは「ではこの感染症によって私たちは、何から何へと移行するのか」と問いかけます。「歴史的な移行が起こるのだとすれば、ただ受け身で変化を待つだけでなく、コロナ前から移行したいと思っていた方向に促進できるように、何ができるだろうかと考えている」という現実的で前向きな思考は、コロナ禍を生きる私たち全員が自問したいことではないでしょうか。

また最後に、とても大切な視点が示されました。感染症が作り出す「分断」です。
新型コロナウィルスの初期も、中国やアジア人が世界中で不当にバッシングを受けることがありましたが、先人たちもかつて感染症が出現するたびに、最初に持ち込んだ人を責めて、新たな感染者を差別したり俗称をつけ、断絶と対立のメンタルモデルを繰り返してきました。
人類の歴史が「感染症との戦いの歴史」であるならば、私たちはその戦績をどう捉えるべきなのでしょうか。本書の予言のようなコロナ禍を生きる私たちは、この先どうやって感染症との共生を進めるべきなのか。後世に残すべきことを急速に学び、それぞれが行動を起こすことが求められています。

幸せ研の読書会は「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について知り、考え、話し合う場です。2020年4月以降はオンライン開催となりましたので、遠方在住の方も参加可能となりました。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページからご覧ください。

(やなぎさわまどか)