幸せ経済社会研究所、第102回の読書会の課題図書は『世界は贈与でできている』。枝廣先生は、「贈与が世界にあるのはわかるけど、贈与で世界ができている、という表現は面白いので、ぜひみんなで読みたいと思った」とのこと。確かに、実に気になるタイトルですね。
本書は、まず贈与をどう考えたらいいか、そして世界はどうつくられているかについて述べ、それらを踏まえて世界と贈与の関係を説明する、という流れになっています。哲学者である著者によるこれまでと違う世界の見え方を紐解くために、読書会はまずディスカッションからはじまりました。
著者の定義による「贈与」とは、「僕らが必要としているにもかかわらず、お金で買うことができないもの、およびその移動」。そして「お金で買えないもの一切は、誰からから手渡されることによって、僕らの目に立ち現れる」と説明されています。
そこでみんなで「お金で買えないもの」は何かを挙げ、「本来、お金で買えないのに買えるがごとく売られているもの」って何だろう、という話題でディスカッションをしました。
なにもかもが売買されるように思える世の中で、贈与がもつ意味はなんだろうか。そんな疑問が湧き上がってくる中で、枝廣先生による解説が進められました。
まずは、「贈与」と「交換」の性質について。贈与はタイムラグがある返礼を伴い、その時間差からつながりを生みます。一方で交換は、その場で等価価値を交わすことでその都度関係を断つことになります。
現代社会は、交換の論理が幅を利かせる傾向があります。交換は等しい価値の交換ですから、交換するものがなくなってしまった人は「助けて!」という声すらあげにくい空気があります。
そこで想起されるのが、貧困支援の現場から聞かれる声です。いま日本では、極度の貧困にありながらも、「人さまに迷惑をかけられない」と、助けを求めることができず、命を落とす人がいるのです。枝廣先生は、幸せな社会を築いていくには、交換の論理がはびこる中でどう贈与の論理をキープしていけるかが大切だと話されました。贈与のある社会は、レジリエンスのある社会と言えるのです。
次に着目したのが、贈与がもつタイムラグ。贈与は「差出人にとっては受け渡しが未来完了時制」であり、「受取人にとっては受け取りが過去完了時制」だということです。つまり、今と未来、今と過去が交錯するのが贈与の本当の姿だというのです。
これは説明を聞くとわかりにくいですが、過去の歴史を振り返ってみれば感覚的に理解できます。過去から今に至る歴史を見渡してみると、私たちには過去からあまりにも多くのものを「贈与」されてきたかに気づかされます。これまで生きてきた人の努力や工夫の上に、いま当たり前だと思っている価値観や文化があるのです。
著者は、世界は常に危うい状況にあると述べています。ギリギリの均衡を保ちながら、辛うじて昨日と同じような今日がやってくるというのです。この危うい世界を支えているのが、無名のヒーローたち。何人もの無名のヒーローが、過去に埋もれた贈与に気づき、それを受け取ることで、再び未来に向かって贈与を受け渡すことで社会を支えているのです。
大切なのは、届いてしまった手紙を読み解くような想像力。過去から、周りから受け取った贈与を意識し、自分から何を贈与できるかを考え、行動する。無名の自分も、ヒーローとして生きねば、と、勇気をもらえる読書会となりました。
幸せ研の読書会は「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について知り、考え、意見しあう場です。2020年4月以降はオンライン開催となりましたので、遠方在住の方も参加可能となりました。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページからご覧ください。
(POZI サステナビリティ・プランナー 丸原孝紀)