ホーム幸せ経済社会研究所これまでの常識を疑い、異なる価値観を思いやること。近未来の人口減少・少子高齢化に向むけた『未来を見る力』読書会レポート

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これまでの常識を疑い、異なる価値観を思いやること。近未来の人口減少・少子高齢化に向むけた『未来を見る力』読書会レポート

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103回目を迎えた幸せ研の読書会は、『未来を見る力 人口減少に負けない思考法』が課題書になりました。2018年の勉強会でも、同じ著者・河合雅司さんが書かれた『未来の年表』を課題書にしたことがありましたが、今回は、著者の経験を追体験するだけではなく、未来をどう捉えるべきかに迫った一冊です。

日本にとっての最大の社会課題が「人口減少」だとした場合、今抱えている課題は何なのか。または、具体的な人口減少の対策とは、どのようなことが有効的なのか。一言で少子高齢化といっても、現実との乖離が大きいようです。今回の勉強会もオンラインにて開催し、途中でグループごとのディスカッションを重ねながら、共通理解を進めていきました。

本書の初めには、枝廣さんも「そうなのか、と思わされた」と言うデータが多く紹介されています。たとえば、2022年には団塊世代が77歳を超えた高齢者となり、2025年には5人にひとりが認知症になるという直近の未来予測や、人口はこれからの40年間で3割減、100年以内に5割減というデータに基づいた人口推移。日本政府は、1億人をキープするという見立てを公表しているそうですが、女性の半数が50歳を超えるという現実は、出生「率」が上がっても出生「数」が増えないことを物語っています。

筆者は、こうした事実を受け入れて、これらを前提に置いた考え方をできるかどうかが大きな分かれ目である、とうったえています。各自治体が若い世代の移住を取り合うような従来の手法ではなく、発想を切り替える重要性を具体的に提案します。

人材をただの労働力や生産性として捉えることは前時代のものとし、人口が減っても、もしくは、人口が減ったからこそ、豊かになるような”戦略的に縮む”国づくりを考えることが急務となります。社会課題を語る際、どういうわけか「自分たちは大丈夫」というバイアスが掛かることもありますが、少子高齢化については誰にとっても等しく、思考の最適化を図る時が来ているようです。

ではそんな未来を生きる私たちにとって、どんな力を高めることが望ましいのでしょうか。著者の答えはいくつかありましたが、枝廣さんが驚きをもって注目したというのが「エンパシー」です。

日本語では「共感力」と訳されることが多い「エンパシー」は、異なる価値観や信条の相手の気持ちや状況を想像し、思いやること。誰かの感情に共感する「シンパシー」との違いは、同情や思いやりといった「感情」であるシンパシーと、一方で、相手の立場になって考えることができる「知的な作業」のエンパシー。人口推移の現実を理解した後は、これまでとは違う価値観に切り替えて、自分と異なる人たちに寄り添いながら変化の歩みを進めることです。

たとえば、労働力や市場が縮む事実を踏まえて、質を向上し少ない売り上げでも利益が保てることを考え出す。強みは生かして捨てるべきを捨て、付加価値の高いイノベーションを作り出す。そうした、これまでとは違う構想や筋道のつけ方を考え行動に移していきましょう。

また、時は世界的なパンデミックから脱せずにいることも、これまでとは違う発想や価値観が生まれるチャンスだと筆者は捉えていました。雇用や労働環境、教育の目的など、変化せざるを得ない今だからこそ、しなやかな切り替えが可能なはずだと希望を感じ取っています。

枝廣さんからも「相手を思いやることが当たり前の社会になったら、日本の未来は大きく変わることができそう」とエンパシーの重要性に共感する話がありました。今までの常識から目線を変えて、新しい価値観にそれぞれの居場所や役割を見つけることで、100年後の次世代にも良い社会を繋げられそうです。

幸せ研の読書会は「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について知り、考え、意見しあう場です。2020年4月以降はオンライン開催となりましたので、遠方在住の方も参加可能となりました。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページからご覧ください。

(やなぎさわまどか)