幸せ経済社会研究所、107回目の読書会の課題図書は、加藤秀樹氏著『ツルツル世界とザラザラ世界・世界二制度のすすめ』。もう、タイトルが謎で気になりますよね。枝廣先生は「本質的なことが書いてある、気づきのタネがある」ということで、本書を課題図書に選択。今の社会が窮屈だと感じる人に、どうして社会は窮屈なのか、どう変えていけばいいのかを考えるヒントを与えてくれるという本書を、ディスカッションを交えながら読み解きました。
経済が発展し、グローバリズムが進むことで、私たちの暮らしは豊かになりましたが、弊害も目立つようになってきました。著者は、社会にみられる様々な弊害の共通する原因を、“生き物”としての人間が中心ではなくなっている」ことにあると指摘しています。生き物としての人間ではなく、経済を中心とした巨大なシステムを中心に世界は動き、組織も個人も、その小さな一部として動かざるを得なくなっている。そのシステムに適応できる一部の人たちだけが成功し、ついていけない多くの人は生きづらくなるという社会になっているというのです。
経済の自由化を推し進めるためには、多くの人が概念を共有できるように新しいしくみルールがどんどんつくる必要があります。著者の言う「ツルツル世界」というのは、標準化されたルールだらけの世界。物理の世界ではツルツルは不安定な状態なのだそうで、そこに生きてる人間も不安を抱えて生きざるを得ません。それに対する「ザラザラ世界」というのは、グローバル化の過程で”生き物“としの人間を取り戻すアナログ的な試みが行われる社会のことを指します。
著者は、人間というのはやっかいな生き物だと述べています。生きていくために最低限の行動を行う生物としての側面に加え、もっともっと欲しくなるというヒト特有の側面を併せもつことで、生物としての人間が悲鳴をあげ、地球環境を破壊するようになってしまったのです。
いまの世の中、とかく多様性が大切だと言われていますが、著者は本来の意味での多様性は、気候や風土、文化と一体のものだと述べています。動物が環境に合わせて進化していったのと違い、人間は、自分が変わる代わりに知恵を絞って多様な住居、衣服、食料、言葉などを編み出し、それぞれの環境に適応してきた。それが本来の多様性だというのです。
地域ごとに育まれてきた多様性は、歴史が進むとともに失われていきます。地域間の交流が活発になり、経済が豊かになることで科学技術が発展し、エネルギーをたくさん使うようになると、個人における衣食住の選択肢が増えることに。こうした動きが気候や風土の変化を乗り越えて進んでいくとで、個人の生活は「多様化」するものの、世界の「多様性」は失われ、画一化していきます。
生物界において多様性は、持続可能性と変化への対応力を担保しています。多様性を失い画一化されていく文明は、サステナブルとは言えないのかもしれませんね。
この世界の画一化をさらに推し進めているのは、「概念化」の問題。グローバル化が進み情報伝達の範囲が拡大すると、新体制に基づく言葉ではなく、記号としての「概念的」な言葉が多用されるようになります。概念的な言葉によってつくられたルールがどんどんできて、メディアやSNSで白黒ハッキリした概念に人びとが慣れていくことで、世界はどんどん画一化していくというのです。
物理的な豊かさや効率を追求するために概念でがんじがらめになった「ツルツル世界」に適応できる、特定の地域の限られた人だけが成功する社会は持続可能とは言えません。それぞれの地域に根差した産業や、地域の人たちのつながり、そして自然の一部としての「ザラザラ」な文明を取り戻していく必要があります。
しかし、ツルツルが幅を利かす現代社会を、急にザラザラ化させることは不可能です。まずは、ツルツルとザラザラが併存する社会をつくり、ザラザラの良さを知らしめて広げていくこと。そこに著者は希望を見出します。
頭でっかちの概念ではなく、身体性に基づく言葉づかいを意識すること。金銭や数字で評価されないものの価値を大事にすること。手間をかけることで見いだされる意味をかみしめること。できることは、まだまだあります。
枝廣先生は「ザラザラ」な取り組みとして、自分たちが食べたいと思う国産大豆の豆腐を地元のお豆腐屋さんに働きかけて流通させていくことに成功した下川の女性たちによる「豆腐プロジェクト」を紹介されました。
暮らしや考えのすべてを変えることは難しいかもしれません。でも、「これはツルツルかな?ザラザラかな?」と意識するだけでも、世界を変える一歩になるかもしれない。そんなことを考えさせられた読書会でした。
幸せ研の読書会は「幸せ」「経済」「社会」をめぐるさまざまな問題について知り、考え、意見しあう場です。2020年4月以降はオンライン開催となりましたので、遠方在住の方も参加可能となりました。ご案内はこちらの幸せ経済社会研究所のページからご覧ください。
(POZIプランナー 丸原孝紀)